2013年4月25日木曜日

つぼつくりのデイヴ















「つぼつくりのデイヴ」(レイバン・キャリック・ヒル/文 ブライアン・コリアー/絵 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2012)

いまから200年ほど前のアメリカ。奴隷のデイヴは粘土で壷をつくって暮らしていました。たっぷりこねた粘土のかたまりが、次つぎとデイヴの仕事場にはこばれてきます。デイヴは川の水を粘土にそそぎ、ちょうどいい固さになるまで、へらで混ぜます。それから、ろくろを回し、あかぎれのできた親指で、粘土の真ん中をつまみ、壷のかたちをつくっていきます。どんな壷ができあがるのかは、デイヴの頭のなかにしかありません──。

壷ができあがり、乾くのを待つあいだ、デイヴは木の灰と砂を混ぜて釉薬をつくります。そして、壷がすっかり固まる前に、細い枝で壷に文字を書きつけます。

アメリカに実在した壷づくりの奴隷、デイヴについての絵本です。絵は、迫力のあるコラージュ。巻末の「デイヴの人生」という解説によれば、デイヴは自身がつくった壷に詩を書きつけていて、それにより、かれの人生の断片がわかるようになったということです。奴隷という、表現活動が死に結びつく可能性を秘めた境遇のなか、詩を書きつけるのは大変危険なことでした。解説には、デイヴの詩がいくつか載せられています。ひとつ引用してみましょう。

《私の家族はどこなのか?
 すべての人──そして、国に、友情を
      ──1857年8月16日》

大人向き。


ソリちゃんのチュソク















「ソリちゃんのチュソク」(イオクベ/作 みせけい/訳 セーラー出版 2000)

あと、ふたつ寝るとチュソク(旧暦の8月15日。日本のお盆にあたる)です。町に住むソリちゃんは、家族と一緒にまだ暗いうちに家をでました。バスターミナルは、もうひとでいっぱい。車はなかなか進みません。途中、バスを降りてひと休み。ようやく田舎に着いたソリちゃんたちを、タンサンナム(堂山木。村の入口の守り神が鎮座するところに植えてある木)が迎えます──。

親戚みんながあつまって、お月さまをみながら、新米でソンピョン(松餅)づくり。チョソクの当日は早く起きて、つきたてのおもちやもぎたての果物をそなえ、心をこめてチャリェ(茶礼。先祖に収穫の報告とお礼をする儀礼)をします。

韓国のチュソクについての絵本です。絵はていねいにえがかれた水彩。横長の画面に、大勢のひとや風俗が細ごまとえがかれ、見飽きることがありません。また、注釈が作品の理解を助けてくれます。このあと、ソリちゃんたちは、お墓参りをし、プンムル(農楽)の響くなか、村中で楽しく踊ります。韓国の文化に触れることのできる一冊です。小学校中学年向き。

2013年4月24日水曜日

赤ひげのとしがみさま














「赤ひげのとしがみさま」(ファリード・ファルジャーム/再話 ミーム・アザード/再話 ファルシード・メスガーリ/絵 さくらだまさこ/訳 いのくまようこ/訳 ほるぷ出版 1984)

昔、赤い髪の毛と赤いひげの、としがみさまがいました。としがみさまは、毎年春になると町へやってきました。町の門の外側には、小さな庭があり、春になると、薄桃色や白の花が咲き、おいしい果物がたくさんなりました。この庭のもち主のおばあさんは、としがみさまが大好きでした。毎年、春の最初の日がくると、おばあさんは日が昇るまえに起きだし、としがみさまを迎える準備をはじめました。

おばあさんは、きれいな絹の敷物をベランダに敷きます。ベランダの前の庭に水をまき、池の噴水をだし、水が花や草にかかるようにしてやります。そして、銀色のふち飾りのついた鏡を敷物の上に置きます──。

作者はイランのひと。文章はタテ書き。絵は、コラージュで表現されています。イランにも、としがみ(年神)さまを迎える風俗があるのでしょうか。このあと、おばあさんはきれいに化粧をし、Sの頭文字がつく品物を7つお盆にのせ、それを敷物の上に置きます。それから、その横に、7種類のお菓子を入れたガラスの入れものを置いて、としがみさまを待つのですが、おばあさんは居眠りしてしまい──と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年4月23日火曜日

さかさんぼの日















「さかさんぼの日」(ルース・クラウス/文 マーク・シーモント/絵 三原泉/訳 偕成社 2012)

朝、ベッドからでた男の子は、「きょうは『さかさんぼの日』にしよう」と思いつきました。パジャマを脱ぐと、まずコートを着て、その上にズボンをはき、上着を着ました。それから、ズボンの上にパンツをはいて、上着の上にシャツを着ました。

男の子は靴をはき、その上に靴下をはきます。そして、「さかさんぼに歩かなくちゃ」と、後ろ向きに、そろーりそろりと階段を下りていきます──。

ルース・クラウスとマーク・シーモントは、「はなをくんくん」の作者。本書は、タイトル通り、なんでもさかさにしようと思いついた男の子のお話です。このあと、男の子は食卓にいき、お父さんの椅子に後ろ向きにすわり、お父さんのナプキンを後ろのえりに挟みます。すると、お父さんがやってきて、男の子は「パパ、おやすみ!」と挨拶をします。男の子の思いつきに、家族がつきあうところが愉快です。小学校低学年向き。

アナベルとふしぎなけいと















「アナベルとふしぎなけいと」(マック・バーネット/文 ジョン・クラッセン/絵 なかがわちひろ/訳 あすなろ書房 2012)

アナベルは、色とりどりの毛糸が入った箱を拾いました。うちに帰り、セーターを編みましたが、毛糸はまだ残りました。そこで、犬のマースのセーターも編みましたが、毛糸はまだ残りました。

マースと散歩にでかけたアナベルは、ネイトに出会います。ネイトはアナベルのセーターをみて笑いますが、そんなネイトにも、ネイトの犬にもアナベルはセーターを編んであげます。それでも、毛糸はまだ残っていて――。

絵は、グラフィカルな、洗練された水彩。雪が降る単色の町を背景に、アナベルの編んだ鮮やかなセーターがコラージュ風に扱われ、素敵な効果をあげています。このあと、アナベルは、教室のみんなや、先生や、町のひとたちや、動物たちや、建物にもセーターを編んであげます。それでも毛糸はなくならず、アナベルと不思議な毛糸の話は評判となり、ある日、海の向こうから王子がやってきて――と、お話は続きます。お洒落な、幸せな味わいのする一冊です。小学校中学年向き。

2013年4月20日土曜日

かあさんのいす















「かあさんのいす」(ベラ B.ウィリアムズ/作 佐野洋子/訳 あかね書房 1984)

母さんは、ブルータイル食堂でウェイトレスをしています。仕事から帰ってくると、お財布から細かいお金をだして、わたしにくれます。わたしはそれをビンに落とします。ビンはすごく大きいので、いつになったらいっぱいになるのかわかりません――。

去年の火事で、イスも、ほかのものも、ぜんぶ焼けてしまいました。ビンのお金が一杯になったら、すごくきれいで、すごく大きな、バラの模様のビロードをかぶったすてきなイスを買うのです。

本書の冒頭に、「かあさんの思い出のために」という献辞が記されています。本書は、作者の子どものころの話なのかもしれません。絵は、ていねいにえがかれた親しみやすい水彩。さて、火事でみんな焼けてしまった〈わたし〉の家ですが、家族はみんな無事でした。アパートに引っ越すと、近所のひとたちが家具や食器やいろんなものをもってきてくれました。そして、ついにビンが一杯になる日がやってきます。小学校高学年向き。

ふくろうのそめものや















「ふくろうのそめものや」(山口マオ/作 鈴木出版 2001)

昔、フクロウは染めもの屋をしていました。森じゅうの鳥たちがやってきては、からだを好きな色に染めてもらい、それは繁盛していました。そのころ、カラスは真っ白でした。カラスはそれが自慢だったのですが、ほかの鳥たちが次つぎにきれいな色になるのをみて、染めもの屋にすっ飛んでいきました。

カラスはフクロウに、桃色にしてくれと頼みます。ところが、まだ染めてもらっている途中で、「待てよ、こっちの青のほうが目立つかな」といいだして――。

カラスはなぜ黒いのかという、日本の民話をもとにした絵本です。文章はタテ書き。絵は版画。シンプルで、よくお話にあっています。さて、このあとも、カラスは気まぐれな注文ばかりします。とうとうフクロウは腹を立て、そこらじゅうの色をカラスにぶちまけて――と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年4月17日水曜日

シモンのおとしもの















「シモンのおとしもの」(バーバラ・マクリントック/作 福本友美子/訳 あすなろ書房 2007)

まだ馬車が走っているころのパリ。アデールは、弟のシモンを迎えに学校にいきました。シモンはセーターの上に上着を着て、帽子をかぶり、マフラーと手袋をしていました。それから、カバンを背負い、本とクレヨンと学校で描いたネコの絵をもっていました。「シモン、きょうは落としものをしないように帰ろうね」と、アデールがいうと、「うん、大丈夫」と、シモンはこたえました。

ところが、シモンはさっそく市場でネコの絵をなくしてしまいます。公園では本をなくし、博物館ではマフラーをなくしてしまい――。

作者のバーバラ・マクリントックは、「ないしょのおともだち」などの作者です。ちょっと銅版画を思わせるような、抑えた色づかいでえがかれた古風な絵は、よく作品にあっています。さて、本書はシモンが落としたものをみつける絵本です。このあと、地下鉄の駅前や、ルーブル美術館や、お菓子屋メゾン・カドールの店内で、シモンは落としものをし続けます。緻密にえがかれた背景のどこかに、落しものが隠れているのですが、それをみつけるのはなかなか大変。でも、最後、落しものは思いがけなくシモンのもとに届けられます。姉妹編に「シモンのアメリカ旅行」(2010)があります。ところで、植物園のむこうを歩いているのは、マドレーヌたちでしょうか…。小学校低学年向き。

いちごばたけのちいさなおばあさん















「いちごばたけのちいさなおばあさん」(わたりむつこ/文 中谷千代子/絵 福音館書店 1983)

イチゴ畑の土のなかに、小さなおばあさんがすんでいました。おばあさんの仕事は、イチゴの実に赤い色をつけて歩くことでした。ある年、ぽかぽかとした、あたたかい日が続いたことがありました。おばあさんが階段をのぼり、地面の上にでてみると、イチゴ畑は見渡すかぎり青あえとした葉をしげらせていました。

「まあ大変、いまごろからイチゴがこんなに伸びてるなんて、これでは花が咲くのも間近だわ」と、おばあさんは大あわてで、イチゴに塗る赤い色づくりにとりかかります。

絵を描いた中谷千代子さんは、「かばくん」の絵をえがいたひと。絵はおそらく、薄塗りの油絵。土の色を紫色でえがいたところに工夫があります。さて、このあと、おばあさんは大急ぎで赤い色をつくり、イチゴにそれを塗っていきます。ところが、畑中のイチゴに色をつけた翌日、あたり一面真っ白な雪野原になっていて――と、お話は続きます。作中に、畑中のイチゴを塗り終わったおばあさんがうたう歌があります。小学校低学年向き。

たにし長者















「たにし長者」(岩崎京子/文 長野ヒデ子/絵 教育画劇 1996)

あるところに、はたらき者の夫婦がいました。子どもがいなかったので、「たとえタニシみててえに、ちっこい子でもええ、どうかさずけてけろ」と、水神さまにお願いをしました。すると、「よし、そこに転がっているタニシをやろう」と、水神さまの声がして、目を開けると、ひざの上にタニシが転がっていました。

水神さま申し子のタニシを、夫婦は大切に育てます。でも、10年たっても、20年たってもタニシは大きくなりませんし、口もききません。ある日、お父つぁんが年貢の米をウマにつけながら、年をとったことを嘆いていると、突然どこからか声がします。「おらが、ウマを引いていくだよ」――。

昔話、「たにし長者」をもとにした絵本です。文章はタテ書き。絵は、太い描線の柔らか味のあるもの。さて、このあとタニシはウマを引き、長者どんの家に米をはこびます。長者どんに気に入られたタニシは、下の娘をヨメもらい、おかげで家は明るくなり、ヨメはムコ殿を帯にはさんでよくはたらいて――と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年4月14日日曜日

くるまはいくつ?














「くるまはいくつ?」(渡辺茂男/文 堀内誠一/絵 福音館書店 1967)

車は三角ではありませんし、四角でもありません。車は丸いから転がります。車が1つあるものなあんだ?」――1輪車。「車が2つあるものなあんだ?」――2輪車。2輪車は自転車。車が2つあるものはまだあります――。

車があるものを挙げていく絵本です。文書はカギカッコなどありませんが、会話形式で書かれています。絵は、線の太い、よく遠目のきくもの。車が3つあるものは、3輪車で、4つあるものは、乗用車。質問は10まであり、そのあと「数え切れないほどたくさん車がついているものなあんだ?」という質問に続きます。会話のやりとりが愉快な一冊です。小学校低学年向き。

2013年4月12日金曜日

まんげつダンス!















「まんげつダンス!」(パット・ハッチンス/作 なかがわちひろ/訳 福音館書店 2008)

満月の夜、ブタとヒツジとウマは月を見上げ、「こんな日はひと晩中踊っていたいわね」といいました。でも、子どもたちがすやすや眠っているので、踊ることはできません。そこで、三匹は床にわらを敷きました。ほら、これならうるさくないわ。

まず最初に、ウマが踊りだします。ぱかぱかぱんぱん、ぱんぱかぱん。ところが、ひづめが小石の床とこすれあって、火花が飛んで、それがわらに燃え移り――。

ハッチンスは「ティッチ」「ベーコンわすれちゃだめよ!」の作者として高名です。絵は、はっきりとした色づかいの厚塗り。月の光の部分と影の部分を強調し、満月の夜の感じをたくみにかもし出しています。さて、このあとウマはあわてて水をかけて火を消すのですが、おかげでふらふらにくたびれてしまいます。そこで、次にヒツジが踊りだします。毛糸玉のように、ぽよよんと跳ねていたヒツジですが、はりきりすぎて梁に引っかかってしまいます。ウマもヒツジもブタもなにかしら失敗をして、くたびれて眠ってしまうのですが、そのあともう少しお話は続きます。小学校低学年向き。


2013年4月10日水曜日

このフクロウったら! このブタったら!















「このフクロウったら! このブタったら!」(アーノルド・ローベル/作 エイドリアン・ローベル/彩色 アーサー・ビナード/訳詩 長崎出版 2013)

ピアニストのフクロウ、花の大好きなフクロウ、金持ちのフクロウ、それから尻尾の曲がっていないブタ、ロケットに乗ったブタ、ハリケーンが吹くとおでかけするブタなどなど──。さまざまなフクロウやブタが登場する絵本です。それぞれのフクロウやブタには、絵がつけられ、詩がつけられています。アーサー・ビナードさんによる訳詩は、語呂のそろった愉快なもの。ひとつ引用してみましょう。

《このフクロウったら あめだま なめる
 なめはじめると「うめぇぇぇ!」とほめる
 ほめると くちから ぽろりと おちる
 ゆかの なめかけ あめだま ふえる》

巻末の、「この本が生まれるまで」によれば、この作品は作者であるアーノルド・ローベルの死後、発見されたものだとのこと。本書は、その作品に娘のエイドリアン・ローベルが彩色をほどこしたもの。エイドリアン・ローベルは、「はみでてもいいんだよ」と、子どものころに父から教わったことを思い浮かべながら色を塗ったということです。その色づかいは柔らかで明るく、作品を盛り上げています。小学校低学年向き。

2013年4月9日火曜日

根っこのこどもたち目をさます















「根っこのこどもたち目をさます」(ジビレ・フォン・オルファース/絵 ヘレン・ディーン・フィッシュ/文 いしいももこ/編訳 童話館出版 2003)

春が近づいてきた地面の下で、不思議なことが起こりはじめていました。土のお母さんが、「さあ、起きなさい。春がきますよ。仕事をはじめなくてはいけません」と、根っこの子どもたちに、声をかけてまわっていたのです。はじめは眠くてたまらなかった子どもたちも、伸びをしたり、あくびをしたりしているうちに、自分たちが起きるときがきたのだとわかって喜びました。

根っこの女の子たちは、春に着る服を縫い、土のお母さんにできあがった服をみせにいきます。そのあいだ、男の子たちは、カブトムシやテントウムシや、バッタやハチやホタルの目をさましてやります。そして、虫たちのからだをよく洗い、ブラシをかけ、春の色を塗ってやります。

根っこの子どもたちの仕事をえがいた一冊です。絵は、古い絵本らしく(原書は1906年刊)、古風な味わいのもの。草花や虫といった小さなものたちに、愛おしい視線がそそがれています。このあと、なにもかも用意ができたとき、春がやってきます。根っこの子どもたちは春夏秋と楽しくすごし、冬がやってくると、また土のお母さんのもとへ帰っていきます。小学校中学年向き。

以下は余談です。本書は「ねっこぼっこ」というタイトルで、1982年と2005年に翻訳が出版されています。冒頭の訳文を引用してみましょう。

「ねっこぼっこ」(ジビュレ・フォン・オルファース/作 生野幸吉/訳 福武書店 1982)

《「お起き、お起き、
     こどもたち、
 さあ、もうすぐ
   春がきますよ!」
 そのこえをきくと、こどものむれは
   めさまし、せのびし、
     きちんとなおす、
  冬のあいだに、みだれたかみを。》

「ねっこぼっこ」(ジビュレ・フォン・オルファース/作 秦理絵子/訳 平凡社 2005)

《「さあ おきなさい こどもたち
 もうすぐ 春が やってくる」
 ねっこぼっこは うーんと せのび
 くしゃくしゃの かみ なでつける》

両者とも調子のいい文章で、「根っこのこどもたち…」の散文とはちがいます。原書は、絵も歌もオルファースの手によるものだと、生野訳の解説にあります。ということは、「根っこのこどもたち…」のほうは、ヘレン・ディーン・フィッシュが文章をつけた別の版からの翻訳ということになるのでしょうか。なお、オルファースについては、秦訳のものが一番詳しい解説を載せています。

さらに余談ですが、金子みすずの詩に、似た着想のものがあります。前半を引用してみましょう。

「金子みすず全集 2」(金子みすゞ/著 ジュラ出版局 1984)より、「土と草」

《母さん知らぬ
 草の子を、
 なん千萬の
 草の子を、
 土はひとりで
 育てます。
 ……》

2013年4月8日月曜日

もっくりやまのごろったぎつね















「もっくりやまのごろったぎつね」(征矢清/文 小沢良吉/絵 小峰書店 2002)

もっくり山のごろったギツネは、いつも変わったものをもちこんでは、騒ぎを起こしました。きょうも、朝早くなにやら抱えてもどってきたので、知りたがり屋のきいきいリスが、さっそく木の上から声をかけました。「新しい商売をはじめようと思ってね。いいものを仕入れてきたのさ」と、ごろったギツネはこたえました。

ごろったギツネが、赤い風呂敷にかかえてきたのは、筆が10本と絵の具が24色。「なんでも絵に描きます」と戸口に貼紙をだし、似顔絵描きをはじめます──。

文章はタテ書きの読物絵本です。小沢良吉さんの絵は、大変いきいきしています。このあと、ごろったギツネは、リスやイノシシやネズミの似顔絵を描きますが、そのうち描く相手がいなくなってしまいます。仕方なく、自分の顔を描こうとしていたところ、もっくり山で一番けちなヤマネコがやってきて──と、お話は続きます。小学校中学年向き。

2013年4月7日日曜日

王さまとかじや















「王さまとかじや」(ジェイコブ・ブランク/文 ルイス・スロボドキン/絵 八木田宜子/訳 徳間書店 2001)

昔むかし、ある国に「えらいホレイショ王」という若い王様がいました。家来たちは、この若い王様のことを、「かしこいホレイショ王」とも呼びました。そう呼ばれると、王様は大喜びするのでした。王様には、どんなことをするにも大臣がついていて、いつ長ぐつをはいたらいいかは、お天気大臣がきめました。いつ、どのくらい食べたらいいかは、テーブル大臣がきめました。王様はよく、大臣たちがどこかへいってしまって、ぼくをひとりにしておいてくれればいいのにと思っていました。

ある日、ホレイショ王は魚釣りにいことします。でも、馬大臣にとめられ、代わりに馬に乗ることになります。馬に乗り、森の空き地にさしかかったとき、カラスがさっと舞い降りてきて、王様の冠をくわえていってしまいます。カラスは、近くの手の届かない高さの枝にとまり、みんなはカラスから冠をとりもどそうとするのですが──。

本書は、白黒とカラーの絵が交互にくる体裁の読物絵本です。ルイス・スロボドキンは、「たくさんのお月さま」などの画家として高名。さっとえがかれた描線が大変魅力的です。さて、王様は冠をとりもどすよう、大臣たちに命令しますが、「盗まれた冠をとりもどす大臣」がいませんと、大臣たちは首を横に振ります。そこで、王様は、あのカラスを驚かせてみてはどうだろうといいだします。「近くの村に、国中で一番大きくて、怖い声をだす鍛冶屋がいる。ここに鍛冶屋を連れてまいれ」と、王様が命令を下して――、とお話は続きます。小学校中学年向き。

2013年4月5日金曜日

アリクイのアーサー















「アリクイのアーサー」(バーナード・ウェーバー/作 みはらいずみ/訳 のら書店 2001)

アーサーは、普段はやさしくて、お手伝いができて、思いやりがあって、お行儀がよくて、お利口で、聞き分けがよくて、頼りになって、心があたたかくて、抱きしめたくなる、文句なしに素晴らしい息子です。でも、アーサーはときどき、困った子になるのです。

ときどき、アーサーは考えこんでしまいます。「ぼくたち、アリを食べるからアリクイって呼ばれてるんだよね。どうしてほかの名前じゃないのかなあ」。それから、アーサーはときどきすることがなくなります。「ぼく、なんにもすることがなくてつまんない」

バーナード・ウェーバーは、「アイラのおとまり」「ワニのライルがやってきた」などの、「ワニのライル」シリーズの作者。わずかに赤と茶色で着色された、モノクロの画面は、あたたかみがあります。文章は、アリクイのお母さんが、息子のアーサーついて語るというもの。いろいろ考えごとをしてしまうアーサーは、部屋を散らかしたり、食べものの好き嫌いをいったり、忘れものをしたりしますが、そんなアーサーを、お母さんは愛情深く語っています。小学校中学年向き。

2013年4月4日木曜日

小さいりょうしさん















「小さいりょうしさん」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 ダーロフ・イプカー/絵 やましたはるお/訳 BL出版 2012)

ある港に、大きい漁師さんと、小さい漁師さんがいました。大きい漁師さんは、大きい船に、大きい水夫たちを乗せ、大きな道具を積みこんで、海に乗りだしました。小さい漁師さんは、小さい水夫たちを、小さい船に乗せ、小さな道具を積みこんで、海に乗りだしました。

大きい波や小さい波をこえて、2隻の船は進んでいきます。大きい漁師さんは、大きい重りをつけたロープをたらし、海の深さをしらべ、大きい網を海に入れます。小さい漁師さんも、小さな重りを投げ入れ、ぴったりの深さの場所で、小さい網を海に入れます──。

大きい漁師さんと、小さい漁師さんの対比が楽しい一冊です。絵は、古典的な絵本らしく(原書の初版は1945年)、少ない色数で、たくみに各場面を表現しています。このあと、大きい漁師さんと小さい漁師さんは、一週間魚をとり続け、どちらも船を魚でいっぱいにして、港へと帰ります。小さな漁師のセリフに、小さな活字がつかわれているのが、ちょっと面白いところです。小学校低学年向き。

2013年4月2日火曜日

はらぺこあおむし















「はらぺこあおむし」(エリック=カール/作 もりひさし/訳 偕成社 1989)

葉っぱの上にちっちゃなタマゴがありました。お日様が昇り、あたたかい日曜日の朝、ぽん!とタマゴからちっぽけなあおむしが生まれました。お腹がぺこぺこのあおむしは、食べものをさがしにでかけました。

月曜日、あおむしはリンゴをひとつ食べます。火曜日には、ナシを2つ、水曜日は、スモモを3つ、木曜日にはイチゴを4つ。どんどん食べていきます──。

エリック・カールの代表作。初版は、1976年。1989年に改版され、手元の本は2005年2月改版357刷。大変なロングセラーです。絵はコラージュ。あおむしが、どんどん果物を食べていく場面では、果物に丸い穴が開けられています。たくさん食べたあおむしは、大きくなり、きれいなチョウに育ちます。幼児向き。

2013年4月1日月曜日

虫めづる姫















「虫めづる姫ぎみ」(森山京/文 村上豊/絵 ポプラ社 2003)

ある大納言に、ひとりの姫君がいらっしゃいました。この姫君は大変に変わった方で、なによりも虫が大好きでした。さまざまな虫を小箱にあつめては、「これがどう変わっていくか楽しみだわ」と、その成長ぶりを見守っておいでになりました。

その時代、身分の高い女のひとは、眉毛を抜いて描き眉をつくり、歯にはお歯黒をつけて黒く染めるのが習わしでした。ところが、この姫君は、「お化粧なんていやなことだわ」と、眉も歯もそのままで、鏡をのぞこうともしませんでした。

平安時代後期の短編物語集、「堤中納言物語」におさめられた「虫めづる姫君」をもとにした読物絵本です。文章はタテ書き。村上豊さんは、主人公の姫君を可愛らしく、しかしいかにも頑固そうな顔立ちにえがいています。さて、こんな姫のことを、両親はもちろん心配します。「ひとはだれでも、見た目の美しさを好むものです。気味の悪い毛虫を可愛がるなどと知られてごらんなさい」。ところが、なかなか理屈屋の姫は、こういい返します。「そんなの平気です。ものごとは、原因と結果を見きわめてこそ面白いのです」。こんな姫の噂を聞きつけて、右馬之助という若い公達がいたずら心を起こして──と、物語は続きます。巻末に、西本鶏介さんによる解説がついています。小学校中学年向き。