2012年12月28日金曜日

1つぶのおこめ












「1つぶのおこめ」(デミ/作 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2009)

昔、インドのある地方に、ひとりの王様がいました。王様は、とれたお米を、ほとんど自分の米倉にしまってしまいました。「米はわしがちゃんとしまっておく。飢饉の年がやってきたら、しまっておいた米をみなに分けあたえよう」と、王様はいいました。

何年ものあいだ豊作が続き、王様の米倉はいっぱいになりました。ところが、ある年飢饉がやってきて、ひとびとの食べるお米がなくなってしまいました。「お約束通り、米倉のお米をひとびとに分けあたえてください」と、大臣たちが頼みましたが、王様は怒鳴り声をあげました。「ならぬ! 飢饉は長く続くかもしれん。約束があろうとなかろうと、王がひもじい思いをするわけにはいかんのだ」

副題は「さんすうのむかしばなし」。絵は、インドの細密画の技法をつかったもの。さて、このあと、王様の宴会のために、1頭のゾウが米を入れたかごを2つはこんでいきます。ところが、片方のかごからお米がこぼれ落ちているのに気がついた村娘のラーニは、落ちてくるお米をスカートで受けとめ、王様に返します。感心した王様が、「なんでも好きなものをほうびにとらせよう」というと、ラーニはこうこたえます。「お米を1粒くださいませ。そして、30日のあいだ、それぞれ倍の数だけお米をくださいませんか」──。かしこいラーニの計画通り、もらうお米はどんどん増えていきます。見開きでえがかれる30日目の絵は圧巻です。小学校中学年向き。

2012年12月27日木曜日

ねずみのとうさんアナトール












「ねずみのとうさんアナトール」(イブ・タイタス/文 ポール・ガルドン/絵 晴海耕平/訳 童話館 1995)

アナトールは、パリ近くの小さなネズミ村に、愛する妻のドーセットと6人の可愛い子どもたちと一緒に暮らしていました。毎日、夕闇がせまると、アナトールたちはパリに通じる大通りを自転車で走りました。そして、人間の家に入りこみ、残りものを頂戴しました。ある夜、入りこんだ家で、アナトールは人間たちがこんなことをいうのを耳にしました。「なんていやらしいネズミだこと!」「やつらはフランスの恥だ。生まれつき悪なんだ」

人間の言葉にショックを受けたアナトールは、友人のガストンに、「人間がぼくたちのことをあんな風にみているとは夢にも思わなかった」ともらします。ガストンは「おれたちだって家族を食べさせねばならないんだぜ」と、こたえますが、アナトールは割り切れません。「軽蔑され、嫌われていると思うとたえられない。ぼくの自尊心はどうなるの? ぼくの誇りは? ぼくの名誉は?」

アナトールが、なぜフランで一番幸せなネズミなのかを語ったお話です。ポール・ガルトンは、「まほうのなべ」などの作者。本書は、白黒と3色のページが交互にあらわれる構成になっています。さて、このあと、「人間になにかお返しができればいいんだけど」という、妻のドーセットの言葉にヒントを得て、アナトールはタイプライターでカードをつくり、夜、デュバルチーズ工場へ忍びこみます──。本の最初と最後が、フランス国旗を模した、洒落たつくりになっています。小学校中学年向き。

ぼくたちまたなかよしさ











「ぼくたちまたなかよしさ」(ハンス・ウィルヘルム/作 久山太市/訳 評論社 1988)

ぼくと妹は、たいていは仲良しです。寝る前にお話をしてやるとき、妹はおとなしく聞いています。でも、分けっこするときは大騒ぎ。ある日、妹はとんでもないことをしでかしました。ぼくが飼っていたカメに運動が必要だなんて考えて、池に放してしまったのです──。

〈ぼく〉は、妹に心底怒り、あんまり腹を立てたせいか具合まで悪くしてしまうのですが――。

兄と妹のけんかを題材にした絵本です。絵は水彩。寝こんでしまった〈ぼく〉は、庭で妹が元気に遊んでいるのがまた許せません。でも、〈ぼく〉はじき妹を許し、仲直りします。裏表紙にえがかれたカメの姿がうれしいです。小学校低学年向き。

2012年12月25日火曜日

イーライじいさんのすてきなともだち

「イーライじいさんのすてきなともだち」(ビル・ピート/作 山下明生/訳 佼成出版社 1986)

昔、カンバンバザンゴという遠い国に、イーライというライオンがすんでいました。かつては、百獣の王と恐れられていたイーライでしたが、いまではすっかり老いぼれて、ネズミみたいに臆病になっていました。ごはんのときも、ライオンたちが満腹になり、ハイエナやジャッカルがあさりつくすまで、おとなしく待っていました。

イーライはハゲタカと一緒に、やっとごはんにありつきます。あんまりハゲタカがわめくので、振り向くと、おばあさんのハゲタカがジャッカルに食わえられ、引きずられていきます。かわいそうになったイーライは、おばあさんのハゲタカを助けるのですが──。

「ちいさなリスのだいりょこう」などをえがいた、ビル・ピートによる絵本です。絵は、色鉛筆でえがかれた、マンガ風の親しみやすいもの。さて、このあと、イーライはハゲタカたちにすっかり慕われてしまいます。あんまりまとわりつかれるので、イーライは怒鳴って追い払うのですが、ある日、ズーバンガ族の男たちがライオン狩りにやってきて──と、お話は続きます。気の利いた展開が楽しい、愉快な一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月23日日曜日

ぶす












「ぶす」(もとしたいづみ/文 ささめやゆき/絵 講談社 2007)

昔、ある屋敷に、太郎と次郎という2人の家来がいました。ある日、主人は2人を呼んでいいました。「このつぼには、ぶすという大変な毒が入っている。つぼのほうから吹く風に当たるだけでも死ぬという、大毒だ。わしはこれからでかけるが、くれぐれも近づかないように」

主人がでかけたあと、2人はつぼから吹く風に当たらないように逃げまわります。しかし、主人は平気でつぼをもっていたと思い、中身をみてみようと、扇であおぎながらつぼに近づいていき──。

狂言「ぶす」をもとにした絵本です。狂言のくり返しの多いが、絵本によくあっています。「あおげ あおげ」、「あおぐぞ あおぐぞ」といったセリフまわしや、擬音の表現など、狂言の面白さが、よく反映されています。絵は、さっぱりとえがかれた親しみやすい水彩。このあと、つぼの中身が黒砂糖だと知った2人は、黒砂糖を食べつくし、いいわけに掛け軸や茶碗をこわして──と、おなじみの話へ続きます。小学校低学年向き。

2012年12月21日金曜日

よるのびょういん











「よるのびょういん」(谷川俊太郎/文 長野重一/写真 福音館書店 2006)

朝からお腹が痛いといっていたゆたかが、夜になって高い熱をだしました。お母さんは119番で救急車を呼びました。救急車はあっというまに病院に着きましたが、お母さんにはとても長くかかったように思えました。

当直の先生が診察し、すぐに手術の準備がはじまります。X線と血液検査の技師が呼ばれ、ゆたかのからだを調べます──。

救急車で病院にはこばれ、手術を受ける、ゆたかの一夜をえがいた絵本です。初版は1979年。一般に、写真は絵よりも早く古びるものですが、緊張感のある構成とモノクロの写真が、この絵本をいまでも読めるものにしています。このあと、お母さんは、夜勤をしているお父さんに電話し、手術室では、ゆたかの盲腸の手術がおこなわれます。小学校低学年向き。

2012年12月19日水曜日

もりのくまとテディベア












「もりのくまとテディベア」(谷川俊太郎/詩 和田誠/絵 金の星社 2010)

《もりのくまは ゆったりあるく

 このまがくれの おひさまあびて
 すきなはちみつ さがしてあるく

 ショーウィンドウの テディベアは
 あしはあるけど すわってるだけ
 どこへもいかない なにもたべない》

谷川俊太郎さんと和田誠さんのコンビによる一冊です。内容は、森のクマの人生と、テディベアの人生をならべたもの。森のクマは、厚塗りの水彩でえがかれ、テディベアは着色された線画でえがかれています。また、文章はタテ書きで、森のクマはゴシック、テディベアは明朝体がつかわれています。森のクマは恋をし、子グマを生みます。子ども部屋のテディベアはなにもしません。だれかが抱きしめてくれるのを待っているだけ、年もとらず、擦り切れ、ほころび、だんだん値段が高くなるだけです。クマとテディベアの対比が、味わい深い印象をかもしだしています。小学校低学年向き。

2012年12月18日火曜日

とぶ












「とぶ」(谷川俊太郎/文 和田誠/絵 福音館書店 2006)

ある晩、まことは空を飛ぶ夢をみました。次の日の朝、あんまりいい天気だったので、本当に空を飛べそうな気がしました。夢のなかでやったように、軽い気持ちで走ってみると、足が地面からはなれ、まことは空に浮かんでいました。

なにしろ、空を飛ぶのははじめてです。最初はうまく飛べません。でも、そのうちこつをおぼえて、まことはどんどん空を飛んでいきます──。

谷川俊太郎さんと、和田誠さんのコンビによる絵本です。絵は、空中に浮かんでいる感じが、じつによくでています。このあと、まことは海の上を飛び、畑の上を飛び、お母さんが洗濯物を干している家の上を飛んでいきます。オチも秀逸。まことと一緒に空を飛んでいる気分になれる一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月17日月曜日

かあさん、わたしのことすき?












「かあさん、わたしのことすき?」(バーバラ・ジョシー/文 バーバラ・ラヴァレー/絵 わたなべいちえ/訳 偕成社 1997)

《かあさん、わたしのこと すき?
 ええ すきよ、だいすきよ。

 どれくらい すき?

   わたりがらすが
 たからものを すきなのよりも、
 もっと いっぱい。

 いぬが じぶんの
 しっぽを すきなのよりも
 もっと いっぱい。

 くじらが 潮ふき口をすきなのより もっと いっぱい、
 あなたが すきよ。》

イヌイットの物語をもとにした絵本です。イヌイットのさまざまな風俗を下敷きにしており、巻末に詳しい解説がついています。物語は、母と娘のかけあいで進み、このあと、娘は、「わたしがジコウウシになっちゃったら? セイウチになっちゃったら? 北極グマになっちゃったら?」とたずねます。もちろん、お母さんはやさしくこたえます。「くまの皮をかぶっていても、あなたはあなたなのだから、母さんはあなたが好きよ」。ちょっと、「ぼくにげちゃうよ」を連想させる一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月15日土曜日

マドレーヌといぬ












「マドレーヌといぬ」(ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作 瀬田貞二/訳 福音館書店 1973)

ある日、散歩の途中、マドレーヌは橋の上からすべって川に落ちてしまいました。すると、1匹のイヌが飛びこんで、おぼれそうになっているマドレーヌを助けてくれました。みんなは、その勇ましいイヌを連れ帰り、ジュヌビエーブと名前をつけました。

月日はめぐり、5月になって、評議員たちがぞろぞろ学校検査にやってきます。評議員たちは、「イヌは学校に入るべからずです」と、ジュヌビエーブを追い出してしまいます──。

「げんきなマドレーヌ」の続編です。登場人物や舞台や物語の構成は、前作を踏襲しており、親しみが増しています。さて、ジュヌビエーブを追い出されたマドレーヌは大いに怒ります。「ジュヌビエーブほどえらいイヌはいないわ。あなたには天罰がくだりますから!」。でも、怒ってばかりはいられません。ミス・クラベルにうながされ、みんなはパリ中をさがしまわります。ですが、ジュヌビエーブはみつからず──と、お話は続きます。訳者の瀬田貞二さんは、その翻訳でしばしばむつかしい言葉をつかいます。本書で、川に落ちたマドレーヌをジュヌビエーブが助けるところは、こんな訳になっています。「1ぴきの いぬが とびこんで、マドレーヌを くわえ、もくずになるみを たすけてくれました」。「もくずになるみ」といういいまわしが愉しいです。コールデコット賞受賞。小学校低学年向き。

2012年12月14日金曜日

さあ、とんでごらん!












「さあ、とんでごらん!」(サイモン・ジェームズ/作 福本友美子/訳 岩崎書店 2011)

公園に枯れ葉が舞い落ち、鳥たちが南の国へむかう季節がやってきました。「ジョージも飛ぶ練習をしましょうね」と、ママがいいました。でも、ジョージは飛ぼうとしませんでした。「まだ、いいや。こわいもん。巣のなかにいるほうがいい」と、ジョージはいいました。

ママが食べものをさがしにいくと、突然強い風が吹いてきます。風は木の葉を吹き飛ばし、ジョージの巣も吹き飛ばしてしまいます。ジョージは巣に入ったまま空を飛び、車の屋根に着地するのですが──。

コマ割りされた絵本です。絵は、マンガ風の親しみやすい水彩。吹きだしはなく、コマの下に文章がついています。さて、このあと車が発進し、ジョージの巣は橋から落ち、ちょうど通りがかった船がはこんでいた材木の上に落ちてしまいます。それから、材木はクレーンでつり上げられ、ジョージの巣もビルの建築現場にはこばれて──と、お話は続きます。ママは気が気ではありませんが、最後、ついにジョージは飛び立ちます。小学校低学年向き。

2012年12月13日木曜日

これはおひさま












「これはおひさま」(谷川俊太郎/文 大橋歩/絵 復刊ドットコム 2012)

《これは おひさま

 これは おひさまの したの
 むぎばたけ

 これは おひさまの したの
 むぎばたけで とれた
 こむぎ》

 

「これはのみのぴこ」と同様、どんどん言葉が積み上がっていく、積み上げ話の一冊です。絵は、クレパス(?)で塗った絵を組み合わせたコラージュ。文章も手書きです。このあと、小麦でつくったパンを男の子が食べ──と、言葉がつながっていき、最後、話はお日様にもどってきます。幼児向き。

2012年12月11日火曜日

げんきなマドレーヌ












「げんきなマドレーヌ」(ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作 瀬田貞二/訳 福音館書店 1972)

パリのツタのからんだ、ある古い屋敷に、12人の女の子が暮らしていました。2列になってパンを食べ、2列になって歯を磨き、2列になって眠りました。女の子たちのなかで、一番のおちびさんがマドレーヌでした。冬が好きで、スキーもスケートも得意で、ネズミなんか怖くないし、動物園のトラにもへっちゃらでした。

さて、先生のミス・クラベルは、ある日の真夜中、どうも様子が変だと目をさまします。ちびちゃんのマドレーヌが、起き上がって、わーわー泣いているのです。さっそく、コーン先生が診察をし、マドレーヌは救急車ではこばれていきます──。

名高い「マドレーヌ」シリーズの第1作目です。いきいきとした描線でえがかれた絵は、カラーとモノクロが場面ごとに入れ替わります。文章は、絵の下に2、3行。場面は次つぎと変わっていきます。さて、マドレーヌが入院し、たちまち10日がすぎ去ります。ミス・クラベルとほかの女の子たちは、いつものように2列になって、マドレーヌのお見舞いにでかけます。作者紹介によれば、マドレーヌという名前は、作者ベーメルマンスの奥さんの名前からとられたそう。また、巻末には、作中にあらわれるパリの名所の解説がついています。小学校低学年向き。

やぎとぎんのすず











「やぎとぎんのすず」(八百板洋子/文 小沢良吉/絵 鈴木出版 2006)

ある日、お百姓さんはヤギに、銀の鈴をつけてやりました。ヤギは嬉しくて、首を振りながら跳ねまわりました。草はらの先に森があり、ヤギはそのなかに入っていこうとしました。ところが、イバラが茂っていてなかには入れません。ヤギがむりやり通ろうとすると、鈴が首からはずれて落ちてしまいました。

「イバラめ、なんてことをするんだ。ぼくの鈴を返してくれ」と、ヤギはいいますが、イバラは「自分でとるがいい!」と知らんぷりします。そこで、ヤギは、イバラをひどいめにあわせてやろうと、ノコギリのところにいくのですが──。

ルーマニアの昔話をもとにした絵本です。絵は、さっとえがかれた水彩。見返しに、ヤギのスケッチがたくさんあり、目を楽しませてくれます。さて、ヤギはノコギリのもとを訪れ、イバラへの仕返しを頼むのですが、「イバラはなにも悪いことはしていない」と、ノコギリに断られてしまいます。そこで、ヤギはこんどは火のもとを訪れて、ノコギリを燃やしてくれ頼むのですが──。このあと、ヤギは、川、ウシ、お百姓のもとを訪れます。「ひつじかいとうさぎ」などと同様、典型的な積み上げ話のパターンなのですが、最後の最後でそのパターンはくずされます。いささか根性の悪いヤギが、相応の報いをうける、気持ちのいい1冊となっています。小学校低学年向き。

2012年12月8日土曜日

キュッパのはくぶつかん












「キュッパのはくぶつかん」(オーシル・カンスタ・ヨンセン/作 ひだにれいこ/訳 福音館書店 2012)

森に落ちているものを拾うのが大好きな、丸太の男の子キュッパは、きょうも森でたくさんのものを拾ってきました。家に帰ると、拾ってきたものを全部床に広げました。それから、百科事典で名前を調べ、分類し、ラベルをつけました。そして、しまう場所をさがしましたが、でも、もうどこもいっぱいで、しまう場所はありませんでした。

キュッパは、困ったことがあると、町に住んでいるおばあちゃんに相談します。電話をかけると、おばあちゃんはこういいます。「そんなにものがたくさんあるのなら、おまえも博物館をつくってみたらどうだい?」

ものをあつめるのが大好きな男の子キュッパのお話です。ノルウェーの絵本で、絵はおそらく鉛筆とCGによるもの。キュッパのあつめたものが細ごまえがかれていて、みているだけで楽しくなります。また、むつかしい言葉には解説がついています。「分類」の説明はこう。「にたものどうしを あつめて しゅるいごとに わけること」。さて、おばあちゃんのアドバイスにしたがって、キュッパは博物館を開きます。努力のかいがあり、博物館には大勢のお客がつめかけるのですが、せまい部屋で眠るのも、箱につまずいて転ぶのにもうんざりしてしまったキュッパは一週間で博物館をやめてしまい──と、お話は続きます。小学校低学年向き。

以下は余談。北欧のスーパーマーケットでみつけた食品や雑貨をあつめて一冊にした本、「スーパーマーケットマニア 北欧5カ国編」(森井ユカ/著 講談社 2011)にも、ほんの少し「キュッパのはくぶつかん」が紹介されています。こちらの訳では、「クッベくん博物館をつくる」。オスロの図書館の司書に、おすすめの絵本をたずね、何冊かみせてもらったうちの一冊がこの本だったということです。

2012年12月7日金曜日

おとうさん












「おとうさん」(シャーロット・ゾロトウ/文 ベン・シェクター/絵 みらいなな/訳 童話屋 2009)

《ぼくには おうさんはいない。
 ぼくが うまれたとき
 とうさんは もういなかった。
 かあさんが はなしてくれた とうさんは
 おとこらしく りっぱだ。
 もし いきていれば
 こんなとうさんだ。》

〈ぼく〉が、いまはいない父さんについて、思いをめぐらせた一冊です。〈ぼく〉と父さんは、毎朝一緒に家をでます。「きょうもいい日だ。しっかりやろう!」と、父さんはいいます。夕方、父さんは帰ってくると、なつかしそうに〈ぼく〉をみます──。巻末の「訳者より」には、こんな文章が記されています。

《この絵本「A Father Like that」の訳出にあたり、作者シャーロット・ゾロトウさんの意向で、少年の父親不在の理由を戦争で死んだとしました。それに伴い、文章の細部を多少変更いたしました。》

小学校低学年向き。

2012年12月6日木曜日

ばけものでら










「ばけものでら」(岩崎京子/文 田島征三/絵 教育画劇 2000)

昔、ある村に、荒れた寺がありました。あるとき、旅の坊さまがやってきて、今夜はここに泊めてもらおうと声をかけました。しかし返事はありません。通りがかった村人に訊いてみると、「ここに泊まるのはやめたほうがええ。化けもんがおってとりつかれるぞ」。すると、坊さんは、「ほう、化けもんか。会ってみたかった」といって、ずんずん寺にあがりました。

さて、掃除をしたあと、坊さんは眠りにつきます。すると、化けものたちがあらわれて、坊さまのまわりで踊りだし──。

絵を描いた田島征三さんは、「ちからたろう」などをえがいたひと。この絵本でも、豪放な絵をえがいています。このあと、坊さまは、「うるさくて寝ておれん」と、化けものと一緒に踊りだします。そして、最後に化けものたちの正体が明かされます。小学校低学年向き。

2012年12月4日火曜日

ガンピーさんのドライブ












「ガンピーさんのドライブ」(ジョン・バーニンガム/作 みつよしなつや/訳 ほるぷ出版 1978)

ガンピーさんは、自動車に乗ってドライブにでかけました。門をでて、細い小道をゆくと、「一緒にいってもいい?」と、子どもたちがいいました。ウサギや、ネコや、イヌや、ブタや、ヒツジや、ニワトリや、子ウシや、ヤギもいいました。「あたしたちもいい?」

ガンピーさんは、みんなを乗せて出発します。はじめは、お日様がきらきら輝き、エンジンはぽっぽと音をたて、なにもかもいい調子だったのですが──。

「ガンピーさんのふなあそび」の姉妹編です。ジョン・バーニンガムは、「ひみつだから!」など数々の作品をえがいたひと。さて、このあと、ガンピーさんたちは雨に降られてしまいます。おまけに、ぬかるみにタイヤをとられ、だれかが車から降りて、押さなくてはいけなくなります。すると、みんなはいいあらそいをはじめて──と、お話は続きます。お話会でよくつかわれる絵本の一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月3日月曜日

かじかびょうぶ












「かじかびょうぶ」(川崎大治/文 太田大八/絵 童心社 2004)

昔、ある山里に、とても栄えた家がありました。ところが、その家のあるじの菊三郎は、生まれつきの怠け者で、毎日遊んで暮らしていました。そのため、あれぼどあった山や畑も売りつくし、とうとうかじか沢のある奥山も、手放すことになってしまいました。

売るまえに、菊三郎は奥山をみにでかけます。かじか沢の大きな一枚岩に寝ころんでいると、水草でつくったような、ぼろぼろの着物を着て、カエルのような顔をした奇妙なじいさまがあらわれます。「わっしゃあ、このあたり一帯に住む、かじかの棟梁でごぜえやす」と、じいさまはいいます。「のう、菊三郎さま。この、かじか沢だけは、どうか売らんどいてくださりませ──」

川崎大治さんが、伊豆の老人から聞いたという話をもとにした絵本です。文章は、民話調のタテ書き。太田大八さんは「天人女房」など、さまざまな作品をえがいています。さて、このあと、菊三郎は、家の古道具をかきあつめて売り払い、なんとかかじか沢を売らずにすませます。おかげで、家に残ったのは、なにも描いていない屏風が一枚きりになってしまいます。ところが、その晩、眠っている菊三郎の耳に、何十、何百というかじかの鳴く声が聞こえ、起きてみると、屏風にみごとなかじかの絵が描かれていて──と、お話は続きます。かじか(カエル)と人間の交流をえがいた、味わい深い一冊です。小学校中学年向き。

2012年12月1日土曜日

おはようのほん

「おはようのほん」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 ジャン・シャロー/絵 谷川俊太郎/訳 童話館出版 1997)

《よが あけます。おつきさまが しずみます。
 あけのみょうじょうが あかるく かがやきます──
 はれやかな あさのほし

 ひがしのほうから とつぜん
 ひとすじのひかりが さします。

 うみにつきだした がけは
 きらきらと こがねいろ。
 おひさまが のぼりました
 きぎのみどりを そめて。》

「おやすみなさいのほん」の姉妹編です。絵は、色鉛筆でえがかれたものでしょうか。かたちのしっかりした、彫刻的な絵柄です。このあと、オンドリが時をつくり、小鳥たちがさえずり、お日様は子馬や、リスや、ヒツジを次々に起こしていきます。最後のページの絵が大変印象的。まさに目のさめる一冊となっています。小学校低学年向き。