2012年8月25日土曜日

おおきななみ










「おおきななみ」(バーバラ・クーニー/作 かけがわやすこ/訳 ほるぷ出版 1991)

ブッシュウィック通りにある赤いレンガづくりの大きな家が、ハティーが住んだなかでおぼえている一番古い家でした。パパがママのために建てた家で、ひとつひとつの部屋にちがう木がつかってありました。ドイツからアメリカに渡ってきて、弟のハインリッヒおじさまとブルックリンで材木商をはじめたパパは、なんでも最高のものをママに贈らないと気がすまないのでした。

さて、「大きくなったら、わたしもきれいな花嫁さんになるの」と、お母さんの写真をみて、姉のフィフィはいいますし、「ぼくはパパの会社で、パパと一緒にはたらいて、うんとお金をもうけるんだ」とヴォリーはいいます。でも、ハティーが「わたしはペインター(絵を描くひと)になるの」というと、「女の子が家にペンキを塗るペインター(ペンキ屋)になるわけないでしょ」と2人ははやしたてます。ハティーが考えていたのは、家のことなんかではありません。空に浮かんでいるお月さまや、梢を渡っていく風や、海で荒れ狂う大波のことを考えていたのです──。

バーバラ・クーニーの作品のなかでは、「ルピナスさん」のような、女性の人生についてえがかれた作品の一冊です。巻末の訳者あとがきによれば、クーニー自身の母親をモデルにしているとのこと。大変裕福な家庭だったらしく、当時のお金持ちの暮らしぶりが興味深くえがかれています。家には家族のほかに、料理人のクララ・ギーゼックと、「ちびネズミ」というあだ名のクララの娘、それにお手伝いのメアリー・ワーグナーが住んでいます。ちびネズミはハティーの絵をみて「すごく上手ね」といってくれます。夏になると、海辺の町ファーロッカウェイにある夏の家に、家族みんなで移ります。ときどき、パパが家族を自分のヨットに乗せて海に連れだしたときは、ハティーはいつも舳先に立っています。そして、家に帰ると自分の部屋にかけ上がり、絵の具箱を引っ張りだして、部屋の壁をたちまち絵でいっぱいにしてしまいます。ハティーが画家になる決心をする場面は、大変な美しさです。小学校高学年向き。

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