2010年4月30日金曜日

ケニーのまど











「ケニーのまど」(モーリス・センダック/作 神宮 輝夫/訳 冨山房 1975)

ケニーは夢の途中で目をさましました。みていたのは庭の夢でした。この庭に住みたいと思ったケニーは、夢のなかで、4本足のオンドリに1枚の紙をもらいました。そこには、なぞなぞが7つ書いてあり、紙はケニーが目をさましてもそばにありました。

以降は、ケニーが解いていくなぞなぞが、物語仕立てで語られます。7つのなぞなぞはこんな感じです。

1だれかにだめといわれても、こくばんにえをかくには、どうしたらいいか?
2だれかさんだけのやぎってなんだ?
3やねのうえのうまはみえるか?
4やくそくをやぶっても、とりかえしはつくか?
5ききいっぱつってなんだ?
6なかもそともみえるものなんだ?
7ねがいごとをしてから、気持ちが変わることないか?

最後に、4本足のオンドリがあらわれて、ケニーがどんな答えをみつけたのかたずねます。

絵も文章も両方自作した、センダックの処女作。子どものひとり遊びを、そのまま結晶化したような、詩的な作品です。現実と夢想が混ざりあっているところなど、その後のセンダックの傾向がすでにうかがえます。小学校中学年向き。

2010年4月28日水曜日

スズの兵隊












「スズの兵隊」(アンデルセン/文 マーシャ・ブラウン/絵 光吉夏弥/訳 岩波書店 1996)

あるところに、1本足のスズの兵隊がいました。最後に鋳型に入れられたので、スズが足りなかったのです。スズの兵隊がいたテーブルの上には、ほかにもいろんなおもちゃがありました。一番目立つのは紙のお城で、その出入り口には、きれいなバレエの踊り子が立っていました。あのひとが、ぼくのお嫁さんになってくれたらなあと、スズの兵隊は思いました。せめて、あのひとと友だちになれたらなあ。

ある日、スズの兵隊と踊り子がみつめあっていると、びっくり箱から小さな黒鬼が飛びだしてきていいました。「スズの兵隊、そんなにじろじろみるもんじゃないぞ」。けれども、スズの兵隊は聞こえないふりをしていました。「ようし! 朝になってみろ!」と、鬼はいいました。次の日の朝、小鬼のしわざか、風のせいか、いきなりパタンと窓が開くと、窓のへりにいた兵隊は、まっさかさまに外に落ちてしまいました──。

その後、さまざまな冒険があり、スズの兵隊はぶじ元の部屋にもどってきます。ところが、最後に思いがけないことが起こります。

アンデルセンの童話をマーシャ・ブラウンが絵本にした、もの悲しく美しい絵本です。読み終えてから、もう一度タイトルを開くと、そこにえがかれた絵はあの場面だったのだとわかります。小学校中学年向き。

2010年4月27日火曜日

カーリーおばさんのふしぎなにわ











「カーリーおばさんのふしぎなにわ」(ルース・クラフト/作 アイリーン・ハース/絵 岸田衿子/訳 あかね書房 1981)

真夏の夕方、3人の子どもがボール遊びをしていました。ボールは塀を越えて、カーリー・ヘブルおばさんの庭に入ってしまいました。おばさんの庭は恐ろしいことで有名です。3人は、裏木戸の割れ目から、おばさんの庭にもぐりこむことにしました──。

3人はすぐ、カーリーおばさんにみつかってしまいます。でも、「せっかくもぐってきたんだから、ひとつ、ふたつ、みせてあげようか、めずらしいものを」と、カーリーおばさんはいって、3人に庭を案内してくれます。

絵は、昔の少女漫画を思わせる、線の細い柔らかなもの。夏の夜の雰囲気がよくでています。文章は、絵にあわせたのでしょう、叙情の勝ったものになっています。カーリーおばさんがなにかいうたびに、びくびくしている3人があらぬことを想像するのがおかしいです。また、最後のオチが、気が利いています。小学校低学年向き。

2010年4月26日月曜日

ひみつだから!












「ひみつだから!」(ジョン・バーニンガム/作 福本友美子/訳 岩崎書店 2010)

マリー・エレインのうちには、マルコムというネコがいました。マルコムは毎晩そとにでかけ、朝になると帰ってきます。ネコって、夜になるとどこへいくのでしょう。ある夏の夕方、マリー・エレインが冷蔵庫から冷たい飲み物をだそうと思って台所へ降りていくと、そこに、おめかしをして、帽子までかぶったマルコムが立っていました。「これからパーティーにいくんだよ」というマルコムに、わたしも連れていってと、マリー・・エレインはお願いをしました。

マルコムがどこへいくのかは秘密です。なので、マリー・エレインはだれにもいわないと約束します。それから、「パーティーにいくんだから、その格好はだめ」とマルコムにいわれて、それらしい格好に着替えると、マルコムと一緒にネコの出入り口を通って出発します。

バーミンガムのえがくネコのマルコムが、じつに愛嬌があります。また、ネコのパーティーも楽しそうです(ごちそうがおかしい)。コラージュをつかった技法がよく生きています。小学校低学年向き。

2010年4月23日金曜日

ルイーザ・メイとソローさんのフルート












「ルイーザ・メイとソローさんのフルート」(ジュリー・ダンラップ/作 メアリベス・ロルビエッキ/作 メアリー・アゼアリアン/絵 長田弘/訳 BL出版 2006)

高いところから飛び降りてねんざした罰として、ルーイはお父さんに反省文を書くようにいわれました。でも、字より染みのほうが多いような文章しか書けません。ある日、ルーイは町の子どもたちと一緒に、ソローさんに連れられて、ハックルベリーを摘みにいきました。みんながハックルベリーを摘んでいるあいだ、ソローさんはフルートを吹いていました。あんなに変わったひとが、こんなに素敵な音楽をどうやって吹くことができるんだろうと、ルーイは思いました。

その後も、ルーイはしばしば家の仕事をさぼっては、ソローさんの野外観察にでかけました。ルーイのなかに閉じこめられていたのは、ことばでした。秋がすぎ、冬がすぎ、春がやってきたとき、まるで氷がとけるようにことばがあふれだし、ルーイはそれを詩にします。

「若草物語」を書いたルイーザ・メイ・オルコットと、「森の生活」で有名なソローとの交流をえがいた読物絵本です。なにか決定的なエピソードが書かれているわけではありませんが、ルーイがことばをみつけるのに、ソローとの交流が必要だったことが自然にうなずかれるようにえがかれています。あとがきによれば、ルーイがはじめて書いたその詩をお母さんにみせたとき、うれしくてたまらないアビー・オルコット夫人は大声で、「あなたは大きくなったらシェイクスピアになるわ!」といったそうです。小学校高学年向き。

2010年4月22日木曜日

まっくろけのまよなかネコよおはいり












「まっくろけのまよなかネコよおはいり」(J.ワグナー/文 R.ブルックス/絵 大岡信/訳 岩波書店 1978)

ローズおばあさんの旦那さんは、ずいぶん前に亡くなりました。いまは、イヌのジョン・ブラウンと暮らしています。ある晩、ローズが窓から外をのぞくと、なにかが庭でうごくのが見えました。それは黒いネコでした。でも、ジョン・ブラウンは、「ネコなんか、影もかたちもありゃしないよ」といいました。その晩、ローズがぐっすり眠ってしまうと、ジョン・ブラウンは外にでていき、黒ネコにいいました。「おまえなんかいらないんだよ。おれたちはふたりだけで充分なんだ。ローズおばあちゃんとおれはな」

ジョン・ブラウンはことあるごとに、黒ネコを邪険にするのですが、ある朝、ローズおばあさんが起きてこないのをみて、考えて考えて、考えを改めます。

端正な絵と文章の絵本です。イヌがしゃべるような絵本じゃないと思っていると、途中からジョン・ブラウンがしゃべりだすので驚きます。読後、深い余韻の残る作品です。小学校中学年向き。

2010年4月21日水曜日

したきりすずめ









「したきりすずめ」(石井桃子/再話 赤羽末吉/絵 福音館書店 1982)

昔、あるところに、じいさとばあさが住んでいました。ふたりには子どもがいなかったので、じいさは一羽のすずめを飼い、とても大事に育てていました。ある日のこと、じいさが山へ柴刈りにいき、ばあさが庭で洗濯をしていたところ、木の上で遊んでいたすずめが、ばあさの煮ておいたのりを見つけて、みんな舐めてしまいました。これに気づいたばあさは、かんかんに腹を立て、はさみですずめの舌をちょん切ってしまいました。すずめは鳴きながら山のほうへと飛んでいきました。山からもどってきたじさまは、ばあさまから話を聞き、「なんとむごいことをしたものよ、おら、すずめにあやまってくる」といって、まっすぐ山に入っていきました。

この後、「すずめや すずめ すずめのおやどは どこじゃいな ちゅんちゅん」といいながら歩いていったじいさは、途中牛洗いどんや馬洗いどんの手伝いをして道を聞き、竹やぶのなかではたを織っているすずめと再会します。

ご存じ、舌切りすずめのお話。絵もお話も非常に洗練された、完璧な絵本のひとつです。小学校低学年向き。

2010年4月20日火曜日

しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん












「しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん」(高野文子/作 福音館書店 2010)

男の子が寝るまえに、いつもお世話になっている、敷き布団とかけ布団と枕に、お願いをするという絵本です。

《しきぶとんさん
 かけぶとんさん
 まくらさん
 あさまで よろしくおねがいします
 あれこれ いろいろ たのみます》

敷き布団もかけ布団も枕も、頼もしく、男の子の願いを聞いてくれます。

「こどものとも 年少版」(2010年2月号 通巻395号)の絵本です。文章も絵も色もじつにリズミカル。ブックデザインは菊池敦己さん。見返しを銀色にしたのが技アリです。作者の高野文子は、おそらく漫画家の高野文子さんでしょう。幼児向き。

おおきなかしの木












「おおきなかしの木」(エリザベス・ローズ/文 ジェラルド・ローズ/絵 ふしみみさを/訳 岩波書店 2006)

昔むかし、かしの木からポロリと落ちたドングリを、リスがみつけました。はこぶ途中、ふいにフクロウが襲いかかってきて、驚いたリスはドングリを落としてしまいました。地面に落ちたドングリは、何年も何年もかけて、みごとな、美しい木に成長しました。秋になると、イノシシたちがドングリを食べにやってきました。かしの根元には、キツネの一家が巣をつくりました。そのうち、きこりたちがやってきて、かしの周りの木を切り倒し、軍艦をつくり、それに乗って新大陸をめざしました。

いつしか、かしのそばには家が建ち、村ができます。ただ1本残ったかしの木は、広場の真ん中で大きく枝を広げ、その土地の人々に愛されます。けれど、突然思いがけないことが起こります。

千年以上生きた、あるかしの木の物語です。淡々とした文章が大きな時間の流れを感じさせます。めりはりの効いた、おおらかな絵も魅了的です。小学校低学年向き。

2010年4月16日金曜日

アンガスとあひる









「アンガスとあひる」(マージョリー・フラック/作 瀬田 貞二/訳 福音館書店 1974)

スコッチ・テリアのアンガスは、なんでも知りたがる子犬でした。ソファの下にはなにがいるのだろうとか、鏡に映った子犬はだれだろうとか。でも、アンガスが一番知りたかったのは、庭の芝生のむこうから聞こえてくるガーガーというやかましい音の正体でした。ある日、ドアが開けっ放しだったので、アンガスはそれっと外にとびだし、生け垣のむこうにいってみました。

カラーと白黒が交互にあらわれる構成です。カラーページはとても鮮やか。子犬のアンガスやアヒルが、素晴らしい的確さで生き生きとえがかれています。小学校低学年向き。

余談ですが、以前飼い犬をつれて近所の池を散歩していたところ、ガチョウにおどかされたことがあります。この絵本のアヒルのように、羽をひろげ、シーシーいいながらむかってきました。

2010年4月15日木曜日

ちいさな木ぼりのおひゃくしょうさん









「ちいさな木ぼりのおひゃくしょうさん」(アリス・ダルグリーシュ/文 アニタ・ローベル/絵 星川菜津代/訳 童話館 1994)

昔むかし、あるところに、小さな木ぼりのお百姓さんと、小さな木ぼりのおかみさんが、小さな木の家に住んでいました。家の横には納屋があり、納屋のそばにはブタのうちがあり、納屋の前にはヒツジを飼うのにちょうどよい場所がありました。一緒に暮らす動物さえいてくれたら、ここは世界で一番素敵な農場になるだろうに、と思った2人は、家のそばの川を毎日さかのぼってくる、木の船の船長さんに、動物をつれてきてもらうようにお願いすることにしました。

小さな木ぼりのお百姓さんは、船長さんにこんな風に頼みます。

「クリームたっぷりの、こいミルクをだしてくれる ちゃいろのめうしを一とう、
あたたかくて ふわふわの毛をした しろいひつじを二ひき、
くるくるしっぽの、ふとった ピンクいろのぶたを一ぴき、
あさに、ときをつげてくれる おんどりを一わ、
まいにち、おおきな茶色のたまごをうんでくれる めんどりを一わ、
家をまもってくれる いぬを一ぴき、
そして、
げんかんの、のぼりかいだんにすわる ねこを一ぴき」

小振りの、絵もお話も可愛らしい絵本です。文書を書いたアリス・ダルグリーシュは、スクリブナー社で編集者として活躍し、マーシャ・ブラウンなどを世にだしたひとだということです。小学校低学年向き。

2010年4月14日水曜日

マーシャとくま












「マーシャとくま」(E・ラチョフ/絵 M・ブラトフ/再話 うちだりさこ/訳 福音館書店 1975)

昔むかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。2人にはマーシャという孫娘がいました。ある日、森にいって友だちとはぐれてしまったマーシャは、ぐるぐる歩きまわっているうちに、だれもいない一軒の小屋をみつけました。その小屋に住んでいたのは大きなくまでした。散歩から帰ってきたくまは、マーシャをみつけると、大喜びでいいました。「もう逃がさんぞ。ここにずっと住んでもらおう。ペチカを焚いたり、おかゆを煮たり、わしにおかゆを食べさせたりしてもらおう」。

こうして、くまにとらわれてしまったマーシャですが、考えて考えて、逃げだす方法を思いつき、実行にうつします。はたして、マーシャはぶじおじいさんやおばあさんのもとに帰ってこられるでしょうか。

全12ページの短い絵本です。お話は起承転結がはっりきしていて、過不足がありません。後半、マーシャの作戦がうまくいくのかどうか、じつにはらはらさせられます。小学校低学年向き。

2010年4月13日火曜日

二ひきのこぐま












「二ひきのこぐま」(イーラ/作 松岡享子/訳 こぐま社 1990)

ある日、お母さんが2匹の子グマにいいました。「いまからハチミツをとりにいってくる。すぐもどるから、おまえたちはここで待っておいで」。ところが、2匹の子グマは、お母さんのいいいつけをすっかり忘れてしまいました。追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたりしているうちに、うちから遠くはなれてしまった子グマたちは、なんとかうちに帰ろうとしますが──。

傑作写真絵本です。写真はモノクロ。子グマたちが大変な可愛さです。また、物語と写真がぴったりあっていることに驚かされます。小学校低学年向き。

マリアとコンドル












「マリアとコンドル」(稲村哲也/再話 ハイメ・ロサン/絵 ヘオルヒーナ・デ・ロサン/絵 福音館書店 1997)

アンデスの広い草原に、マリアという美しい女の子が住んでいました。ある日、キツネやコンドルに襲われないように、マリアがリャマやアルパカの番をしていると、黒い服と白いマフラーをつけた若者があらわれました。「ぼくと遊ぼう。ぼくがきみをおぶってあげよう」。いいわ、とマリアがこたえると、と若者がいいました。「きっと、空を飛んでいるような気がするよ。でも、けっして目を開けてはいけないよ」。

若者は、じつはコンドル。マリアを高い崖の上につれていくと、コンドルは、おまえはおれのお嫁さんになってここで暮らすのだといいだして――。

ペルーの民話をもとにした絵本です。油彩の絵を描いたひとも、ペルーのひと。娘のところにコンドルがやってくるというのが、じつに南米らしいところです。小学校低学年向き。

2010年4月9日金曜日

かたつむりとさる












「かたつむりとさる」(ヤン・サン/再話 ハー・ダン/下絵 モンのこどもたち/刺繍 やすいきよこ/訳 福音館書店 1997)

昔むかし、食べものを探していたサルが、やはり食べものを探していたかたつむりに出会いました。「すばしっこいおれでさえ食べものをみつけるのは大変なんだ。おまえさんじゃ食べものをみつけられるわけないよ」と、サルが馬鹿にすると、かたつむりがいいました。「ぼくだってちゃんと食べものをみつけてるよ。そんなに馬鹿にしたふうにいうんなら、かけっこしてみようよ」。そこで、2人は3日後にここで会い、先に3つの山と3つの谷を越えたほうが勝ちという、かけっこをすることにしました。

当然、まともにたたかっては、かたつむりに勝ち目はありません。そこで、サルと別れたかたつむりは、親類縁者をあつめてある作戦をつたえます。はたして、うまくいくでしょうか。

ラオスのモン族の民話をもとにした絵本です。絵は刺繍で表現されています。「サルとトラ」では、トラに一杯食わせたサルでしたが、ここではかたつむりにだし抜かれてしまいます。小学校低学年向き。

2010年4月8日木曜日

パンのかけらとちいさなあくま












「パンのかけらとちいさなあくま」(内田莉莎子/再話 堀内誠一/画 福音館書店 1992)

あるところに、貧乏なきこりがいました。ある日、きこりがいつものように森にいき、切り株の上にお弁当のパンのかけらを置いてはたらきはじめると、小さな悪魔があらわれて、きこりのパンを盗んでいきました。小さな悪魔は、悪魔のすみかに飛んで帰ると、得意顔でパンを盗んだことをいいました。すると、大きな悪魔たちはかんかんになって怒りました。「なんてやつだ! 貧乏なきこりの大事なお弁当じゃないか。さ、いますぐあやまりにいけ。そして、お詫びのしるしに、きこりのためにはたらいてこい」

さて、お詫びをいいにきた小さな悪魔に、きこりは荒れはてた沼地を麦畑にできるかどうかたずねます。できますと、小さな悪魔がこたえたので、地主の許しをもらってくると、小さな悪魔はあっというまに沼地を麦畑に変えてしまいます。おかげで、見渡すかぎりの畑に麦が実るのですが、そこに地主があらわれて、麦を1本残らず刈りとっていってしまいます。2人はおいおい泣きましたが、小さな悪魔はすぐに元気をとりもどし、麦をとり返しに地主のもとへむかいます──。

リトアニアの民話をもとにした絵本です。小さな悪魔が大活躍するお話。パンのかけらを盗んだら、大きな悪魔に怒られたというのがおかしいです。また、お話のスケールの大きさを、絵がよく表現しています。小学校低学年向き。

2010年4月7日水曜日

わゴムはどのくらいのびるかしら?










「わゴムはどのくらいのびるかしら?」(マイク・サーラー/文 ジェリー・ジョイナー/絵 きしだえりこ/訳 ほるぷ出版 2000)

ある日、ぼうやは輪ゴムがどのくらいのびるか試してみることにしました。輪ゴムをベッドのはしにひっかけて、部屋のそとにでて、自転車に乗って、バスに乗って、駅に着いたら汽車に乗って、着いたところは飛行場。そして、ぼうやが飛行機に乗ると、飛行機は飛び立って──。

輪ゴムがどこまでも伸びていくという、痛快な絵本。お話会の定番絵本のひとつです。そのありえない展開に、子どもたちはえーっと大喜びします。ラストはすぱっと終わるので、それまで喜んでいた子どもたちが、しばし呆然としてしまうのも面白いところです。幼児・小学校低学年向き。

2010年4月6日火曜日

ふしぎなやどや












「ふしぎなやどや」(長谷川摂子/文 井上洋介/絵 福音館書店 1990)

あるところに、チョウという若者がいました。チョウはあの町この村へと流れ歩く旅商人(たびあきんど)でした。ある日の夕方、板橋(はんきょう)という町についたチョウは、「この町で泊まるなら、三娘子(さんじょうし)の宿がいい。しっかり者のおかみさんで、ロバをたくさん飼っている。困っている旅人に安く売ってくれたりする」という、仲間の話を思い出し、三娘子の宿に泊まることにしました。

三娘子は目元のきりりとした、美しいおかみさんでした。その夜、チョウが寝つかれないでいると、となりの部屋で三娘子が手箱から、人形や牛をとりだすのがみえました。三娘子がぷーっと水を吹きかけると、人形たちはたちまちうごきだし、土間をたがやしてソバを育て、ソバ粉をつくりました。そして、三娘子はソバ粉からソバもちをこしらえました。翌朝、三娘子がソバもちを客に食べさせると、客はたちまちロバになってしまいました。

さて、それをみたチョウはある決心をし、ひと月あまりののち、ふたたび三娘子の宿を訪れます──。

中国唐代の伝奇小説集「太平広記」におさめられた、「板橋三娘子」をもとに再話した絵本です。文章はタテ書きの読物絵本。井上洋介さんの画風が話によくあっています。三娘子は一見魔女のようですが、なんとなく憎めません。小学校中学年向き。

2010年4月5日月曜日

かしこいビル









「かしこいビル」(ウィリアム・ニコルソン/作 松岡享子/訳 吉田新一/訳 ペンギン社 1982)

ある日、郵便屋さんがメリーに手紙を届けてくれました。それは、おばさんからの「うちに遊びにいらっしゃい」という、ご招待の手紙でした。さっそく返事を書いたメリーは、おばさんのうちにもっていくものを選びました。芦毛のアップルと、毛皮のついた手袋と、人形のスーザンと、笛と、赤い靴と、ティーポットと、メリーと名前の書いてあるブラシ、それに近衛兵のかしこいビル。メリーは、お父さんにもらったトランクにもっていくものを詰めました。が、なんと、ビルを入れ忘れてしまいました。

忘れられたビルは涙をこぼします。が、すぐに立ち上がり、走って走って、メリーの乗った汽車を追いかけます。

原書の出版は1926年の古典絵本です。巻末には、松岡享子、吉田新一両氏による、懇切な解説がついています。それによると、本書は作者が自分の娘のためにつくった絵本で、登場するおもちゃも、すべて現実のメリーのものだそうです。
「絵本全体にあふれている親密な感じや暖かさ、くつろいだ伸びやかさは、このように、父と幼い娘が、ふたりの知りつくしている世界で、共に物語をたのしんでいることからきているのでしょう」
一直線に進む、躍動感あふれるストーリーは、いまでも読むに値します。小学校低学年向き。

2010年4月2日金曜日

おとなって、じぶんでばっかりハンドルをにぎってる










「おとなって、じぶんでばっかりハンドルをにぎってる」(ウィリアム・スタイグ/作 木坂涼/訳 セーラー出版 1999)

《おとなって、こどもをしあわせにさせたがる。
 おとなって、じぶんもむかしはこどもだったってかならずいう。》

大人がいったりやったりしそうなことを列挙した絵本です。読むと、大人も子どもも、そうそうとうなずくことうけあい。大人のやりそうなことは、まだまだ続きます。

《おとなって、いつでも時間を気にしてる。
 おとなって、なんでもはかりたがるんだ。》

扉の、運転席に縄でしばられて座っている男の子の絵がおかしいです。小学校低学年向き。

2010年4月1日木曜日

おおきなカエル ティダリク










「おおきなカエル ティダリク」(加藤チャコ/再話・絵 福音館書店 2005)

昔むかし、果てのない大平原に、ティダリクという岩山のようなどでかいカエルが住んでいました。かんかん照りが続いたある日、のどがからからで目をさましたティダリクは、近くの池の水をあっというまに飲んでしまいました。それでも、まだたりなくて、「みずどこじゃあ、みずどこじゃあ」といいながら、大平原の水を残らず飲み干してしまいました。ほかの動物たちは困り果て、水を分けてくれるようにティダリクにお願いをしにいきました。

でも、ティダリクは動物たちの願いを聞き入れません。そこで、賢いウォンバットじいさんが、ティダリクを笑わせれば水を吹きだすにちがいないと提案し、動物たちはティダリクの前でそれぞれ芸を披露することになります。

アボリジニ・ガナイ族のお話です。とはいえ、エリマキトカゲの皿回しなんて芸は、再話した加藤さんによるアレンジかもしれません。読み聞かせにつかうには、動物たちの芸のあたりが難関といえるでしょう。ラストは、じつにさわやかに終わります。小学校低学年向き。