2010年1月29日金曜日

ゆうれいフェルピンの話












「ゆうれいフェルピンの話」(アストリッド・リンドグレーン/文 イロン・ヴィークランド/絵 石井登志子/訳 岩波書店 1993)

〈わたし〉とおにいちゃんは、丘の下にあるおばあちゃんの家にお話を聞きにいきました。おばあちゃんのおばあちゃんの代からつたわっている「がりがりフェルピン」のお話です。手のつけられない、いたずら者のフェルピンは、幽霊の格好をして教会のオルガン弾きをおどかすのですが、だれもいなくなった教会で、だれかに首筋をつかまれて、生きたまま血が凍り、100年も教会の壁に立ち続けるのです。

さて、おばあちゃんのお話を聞いた帰り道、〈わたし〉はうっかりフェルピンの名前を口にだしてしまいました。幽霊は名前を呼ばれるとでてくるって、よく知っていたのに! おにいちゃんはどんどん先にいってしまい、〈わたし〉はひとり森に残されて…。

怖いお話を聞いた女の子が、その帰り道怖い目にあうというお話。お話を聞いたあとの、ほんとうになにか起こりそうな感じがとてもよくでています。もちろん、最後は怖いまま終わりはしません。読物絵本。小学校中学年向き。

2010年1月28日木曜日

むぎばたけ











「むぎばたけ」(アリスン・アトリー/作 矢川澄子/訳 片山健/絵 福音館書店 1989)

あたたかい夏の夜、一匹のハリネズミが野道をぶらぶら歩いていました。すると、ノウサギのジャックじいさんに出会いました。「ハリ公、あんたどこへいく?」と、ジャックじいさんがいったので、ハリネズミはこたえました。「ちょっとあっちの畑まで。ムギが伸びるとこをみたいんでね」。そこで、ジャックじいさんも、ハリネズミと一緒にムギ畑をみにいくことにしました。

このあと、2匹はカワネズミと出会い、カワネズミもムギ畑までつきあいます。3匹が目にするムギ畑の場面は圧巻。ムギ畑にいくだけの物語ですが、じつに豊かな時間が流れます。作中、歩きながらハリネズミがうたう歌があります。文章はタテ書きの読物絵本。読み終わると、カワネズミと同じ気持ちがわいてきます。「ムギの穂がでそろって、風にゆられてるとこを見ると、そりゃ胸がすうっとするものねえ」。小学校中学年向き。

2010年1月27日水曜日

クリスマスまであと九日












「クリスマスまであと九日」(マリー・ホール・エッツ/作・画 アウロラ・ラバスティダ/作 たなべいすず/訳 富山房 1991)

ポサダは、クリスマスのときの特別なパーティーです。クリスマスの前の9日間、毎晩ちがううちでおこないます。幼稚園に通っているセシは、はじめて自分のポサダをしてもらえることになりました。市場で星形のピタニャ(紙を貼ってさまざまな形にした粘土の壺。お菓子などを入れポサダのときに割る)を買ってもらったのですが、セシはピタニャを割られたくありません。でも、ポサダの晩、とうとうセシのピタニャは割られてしまいます。すると、そのとき空から声が聞こえてきました。

メキシコの、クリスマスの前におこなわれるパーティー、ポサダについての絵本です。学校が休みになってから、ポサダをするまでのセシの日々がていねいに描かれています。いささか地味ですが、セシのういういしさが感じられる素敵な読物絵本です。また、ピタニャにかんしては、ジャック・ケントの「クリスマスのつぼ」という絵本があります。小学校中学年向き。

2010年1月26日火曜日

毛皮ひめ












「毛皮ひめ」(シャーロット・ハック/文 アニタ・ローベル/絵 松井るり子/訳 セーラー出版 1991)

昔、金色の髪の愛らしいお姫さまがいました。お母さまは姫が赤ちゃんのときに亡くなり、姫はよくひとりぼっちでさみしそうにしていました。幸い、姫をわが子のように思ってくれる乳母がいて、姫にたくさんの先生をつけてくれたので、姫はきれいなだけでなく、強くて、賢くて、なんでおできるお姫さまに育ちました。やがて乳母が死に、お父さまは荷車50台分の銀貨と引きかえに、鬼のような王様に姫をやってしまうことにしました。そこで姫はいいました。「太陽のような金と、月のような銀と、星のように輝く3枚のドレス。それから、千種類のけものの毛皮を少しずつあつめてつくった上着をそろえていただきとうございます」

こんな無理な願いはかなうはずがないと、姫は思ったのですが、願いはすぐにかなえられてしまいます。そこで姫は、3枚のドレスを小さくたたみ、一つ目のクルミの殻におさめ、お母さまの形見の金の指ぬきと、小さな金のつむぎ車を2つ目のクルミの殻に入れ、料理番に教わった大好きなスープの香味料を3つ目の殻に入れると、千枚の毛皮の上着を着て、雪のふる闇のなかにでていきました。

その後、城をでたお姫さまは、とある城の料理番の下ばたらきとなります。お城でおこなわれる舞踏会にこっそり出席し、3枚のドレスや、指ぬきや、香味料をたくみにつかい、素敵な王様の心を射止めます。グリム童話の「千枚皮」によく似たお話です。アニタ・ロベールの絵が物語によくあっています。小学校中学年向き。

せかいのはてってどこですか?












「せかいのはてってどこですか?」(アルビン・トゥレッセルト/作 ロジャー・デュボアザン/絵 三木卓/訳 童話館出版 1995)

井戸のなかに一匹のカエルがすんでいました。カエルは、この井戸が世界の全部だと思っていました。ところがある日、井戸の水がなくなってしまいました。そこでカエルは、石垣をのぼり、世界のはてを見にでかけました。

カエルは出会った動物たちに、ここが世界のはてですかとたずねますが、だれもそうとはいいません。「世界には、ぼくの井戸よりたくさんのことがあるんだな」と、じきカエルは悟ります。デュボアザンの軽妙な絵が楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2010年1月22日金曜日

太陽と月とカラス












「太陽と月とカラス」(タチヤーナ・マーヴリナ/絵 斎藤君子/文 ネット武蔵野 2003)

昔むかし、おじいさんとおばあさんがすんでいました。ふたりには3人の娘がありました。ある晩、おじいさんは麦をとりに納屋にいったところ、袋に穴が空いていて、そこから麦がぽろぽろこぼれ落ち、気がついたときは袋のなかが空っぽになっていました。おじいさんは暗闇のなかで一粒一粒麦をひろいながら、すっかりくたびれていいました。

「太陽がからだをあたためてくれたら、
 月が道を照らしてくれたら、
 カラスのカンタが麦をひろってくれたら、
 太陽に上の娘を、月にまんなかの娘を
 カラスのカンタに下の娘をやるんだがなあ…」

すると、太陽がひょっこり顔をだし、おじいさんのからだをあたためました。それから月が輝いて、おじいさんの足もとを照らし、カラスのカンタが飛んできて麦をひろってくれました。

その後、約束通り、おじいさんは娘たちを太陽と月とカラスに嫁がせます。後半は、おじいさんが嫁いだ娘たちに会いにいく、笑話風の話が続きます。タチヤーナ・マーヴリナの生き生きとした絵が素晴らしい、おおらかな味わいの楽しい絵本です。小学校低学年向き

2010年1月21日木曜日

おばけリンゴ












「おばけリンゴ」(ヤーノッシュ/作 矢川澄子/訳 福音館書店 1978)

昔、あるところにワルターという貧乏な男がいました。ワルターはリンゴの木を一本もっていましたが、この木はまだひとつも実がなったことがありませんでした。そこで、ある日、ワルターはベッドのなかで、ひとつでいいからうちの木にもリンゴがなりますようにとお祈りしました。

ワルターの祈りはかなえられ、木にはひとつ白い花が咲き、それは大きなリンゴになりました。ところが、リンゴはあんまり大きかったので、汽車にのせることができません。ワルターはおばけリンゴをおぶって、はるばる市場にいきますが、これがリンゴだなんてウソだろうと、だれにも買ってもらえず、途方に暮れてしまいます。ところが──。

なにが効を奏するのかわからないという、不思議な味わいのお話。つじつまがあうのかあわないのかよくわからないのですが、なぜか心に残ります。小学校低学年向き。

2010年1月20日水曜日

ねずみじょうど












「ねずみじょうど」(瀬田貞二/再話 丸木位里/絵 福音館書店 1979)

昔、あるところに貧乏なじいさんとばあさんがいました。ある日、山に柴刈りにいくじいさんは、ばあさんにそばもちをひとつこしらえてもらいました。昼になり、じいさんが包みをひろげると、そばもちがころころ転げ落ち、小さな穴にころんと入ってしまいました。じいさんが穴のそばにすわっていると、穴のなかから大きなねずみが顔をだしていいました。「じいさん、じいさん。ただいまはけっこうなごちそうをありがとさん。なにもないけど、ちょっくらうちへよってくだされや」

ご存じ、「おむすびころりん」のお話。この絵本では、転がるのはおむすびではなくそばもちです。このあと、じいさんはねずみの国で歓待され、おみやげに小判をもらってお金持ちになります。そして、それを知ったとなりの、めくされじいさんが、じいさんの真似をするのですが、そのやりかたがあんまり強引すぎておかしいです。ねずみの国では、あねさんねずみのうたう歌があります。小学校低学年向き。

2010年1月19日火曜日

おこった月












「おこった月」(ウィリアム・スリーター/再話 ブレア・レント/絵 はるみこうへい/訳 童話館出版 2006)

昔、ルーパンという男の子と、ラポウィンザという女の子がいました。ふたりは仲の良い幼な友だちで、かばの木の枝と鳥の羽で矢をつくっては、山や野原であそんでいました。ある夏の晩、ラポウィンザは月を見上げて、「みてよあの月、顔じゅうあばただらけだわ」と笑いました。すると、底知れない闇が草原をおおい、七色の虹があらわれたかと思うと、虹はラポウィンザをつつみ、ともに消えてしまいました。

月がラポウィンザを連れ去ったんだと思い、ルーパンは泣きくずれます。が、夜空を見上げ、「ぼくはあの星に矢をあてられる」と思ったルーパンは、星に矢を射かけます。射かけた矢は、つながり、はしごになって、ルーパンはラポウィンザをとりもどすため、空の国にむかいます。

ネイティブ・アメリカンの昔話です。奇想天外なストーリーがこのあとも続きます。とくに、怒った月が2人を追いかけるところなど、大スペクタクルです。小学校低学年向き。

2010年1月18日月曜日

ヒマラヤのふえ











「ヒマラヤのふえ」(A.ラマチャンドラン/作 木島始/訳 木城えほんの郷 2003)

昔、ヒマラヤの谷あいに、ラモルとブリンジャマティという夫婦が住んでいました。ふたりは一生懸命はたらきましたが、ちょっぴりの畑は岩だらけで、なにを植えても根は伸びず、ふたりの暮らしはつらいことばかりでした。ある晩、ふたりのところにおじいさんがやってきました。どうかひと晩泊めてくれませんか、というおじいさんに、ふたりは食べられるものはみんなだして、おじいさんをひと晩泊めてあげました。あくる朝、おじいさんはお礼にと、竹の笛をおいていきました。

それから何日かたち、竹の笛のことなどすっかり忘れてしまったある日、ラモルがふと笛を口にあてると、素晴らしい音色が響きました。そして、岩だらけの畑に草花が生い茂りました。

ここで終わればめでたしなのですが、話はまだ続きます。ラモルの笛の音を聴きに、フクロウに姿を変えて天界から三つ星が降りてくるのです。そして、ラモルの笛に聴きほれて天に帰れなくなりそうになった三つ星は、ラモルをマルハナバチに変えてしまいます。残されたブリンジャマティは、笛をくれた不思議なおじいさんの助けをかりて、三つ星をとらえるための網を織りはじめます──。

「昔、ヒマラヤのふもと、クマオンというところでうたわれていた物語」と冒頭にあります。絵は、様式化された色鮮やかなもの。ヒマラヤの昔話という雰囲気たっぷりの一冊です。小学校中学年向き。

2010年1月15日金曜日

おひめさまのたんじょうび












「おひめさまのたんじょうび」(アニタ・ローベル/作 猪熊葉子/訳 文化出版局 1976)

昔、丘の上のお城にひとりのお姫様が住んでいました。お姫様は毎朝目をさますと、乳母たちが起しにくるのを待ちました。そして、「お起おきになって、お起おきになってお嬢様」と、乳母たちがいうと、お姫様は「あたし、もう起きてるんだけどなあ」と思いました。ある日、お姫様の誕生日がやってきました。パーティーがはじまるまで、行儀よく椅子にすわりながら、「お誕生日おめでとうって、だれもいってくれないわ」とお姫様が思っていると、外から音楽が聞こえてきました。みると、手まわし風琴ひきが、歌ったり踊ったりしていて、そばでは小さなサルがいろいろな芸をしていました。風琴ひきはお姫様をみると、「お誕生日おめでとう」といいました。

お姫様は、この風琴ひきをパーティーにさそいます。が、風琴ひきはお城からしめだされて、なかなかやってこれません。やっと、パーティーに入りこんだものの、王様とお妃様の不興を買ってしまいます。そこで、お姫様はある行動にでるのです──。アニタ・ロベールの細緻な絵と、自由と愛情をもとめるお姫様が印象的な読物絵本です。

2010年1月14日木曜日

特急キト号










「特急キト号」(ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作 ふしみみさを/訳)

南米のエクアドルにあるオタバロというところに、ペドロという小さな男の子が住んでいました。ペドロは赤い機関車の特急キト号が大好きで、キト号が通るとピョンピョンとびはね、「ダダダダ!」といいました。ある日、ペドロはキト号に、ひとりで乗りこんでしまいました。終点のキト駅につき、ペドロをみつけた車掌さんが「きみは何者だい?」と訊くと、ペドロは「ダダダダ!」とこたえました。

こうして、思いもかけずペドロの世話をすることになった車掌さんは、うちにペドロをつれて帰ります。そして、弟の船に乗せたり、一緒にホテルに泊まったりしたあと、オタバロにいく汽車に乗り、ペドロのお母さんをさがしにいきます。マドレーヌ・シリーズで有名なベーメルマンスの、元気のいい絵が魅了的な楽しい読物絵本です。小学校中学年向き。

2010年1月13日水曜日

おによりつよいおれまーい









「おによりつよいおれまーい」(土方久功/再話・絵 福音館書店 1997)

昔、サトワヌ島に住む夫婦にひとりの男の子が生まれました。〈おれまーい〉と名づけられた男の子は、あっというまに大きくなり、強い子どもになりました。でも、〈おれまーい〉はあんまり乱暴だったので、村人たちは〈おれまーい〉をうまくだまして殺してしまおうと相談しました。ところが、森のなかで下敷きになるように木を倒したり、かごに入れて海に投げこんだりしても、〈おれまーい〉はぴんぴんしています。そこで、村人たちは、〈やにゅう〉という恐ろしい鬼がいる島に、〈おれまーい〉を置いてくることにしました。

サトワヌ島の民話を絵本にしたものです。〈おれまーい〉は〈やにゅう〉にも負けません。〈やにゅう〉を投げ飛ばし、食べ物をごちそうしてもらいます。絵はとても不思議で、エキゾチック。文章はすべてひらがなで書かれているので、少々読みづらいです。詠み聞かせにつかうには熟練を要すると思われます。小学校低学年向き。

2010年1月12日火曜日

ともだちつれてよろしいですか












「ともだちつれてよろしいですか」(ベアトリス・シェンク・ド・レーニエ/文 ベニ・モントレソール/絵 わたなべしげお/訳 童話館出版 2003)

ある日、ぼくは王様とお妃様からお茶にご招待されました。「ともだちつれてよろしいですか」と、ぼくが訊くと、「いいとも、いいとも、わしたちの友だちの友だちなら大歓迎じゃ」と、王様はいいました。そこで、ぼくはお城に友だちをつれていきました。

ぼくが連れていった友だちは、なんとキリン。それでも、王様とお妃様は断らず、みんなでお茶をいただきます。以後はくり返し。月曜日の晩ごはんや、火曜日のお昼ごはんや、水曜日の朝ごはんに招待されたぼくは、そのたびにびっくりするような友だちをつれていきます。絵はユーモラスで落ち着いたもの。最後は、これ以外ありえないという結末が待っています。小学校低学年向き。

2010年1月8日金曜日

ジャイアント・ジョン












「ジャイアント・ジョン」(アーノルド・ローベル/作 福本友美子/訳 文化出版局 2004)

昔、魔法の森にジャイアント・ジョンという大きな男の子がいました。魔法の森には妖精も大勢すんでいて、妖精たちが音楽をかなでると、ジョンはひとりでに踊りだしてしまうのでした。さて、ある晩のこと、お母さんはジョンに、もう食べるものがないし、お金もないといいました。それで、ジョンは最後のポテトチップを食べると、仕事をさがしにでかけました。

旅立ったジョンは、王様とお妃様とお姫様がいるお城にやとわれます。雨の日はお城にカサをさしたり、暑い日は風を送ったりして、ジョンははたらくのですが、そこに妖精たちがあらわれて音楽をはじめてしまいます。踊りだしたジョンは、そこらじゅうの花や木を倒し、ついにはお城までこわしてしまい──。話も絵もじつにおおらか。アーノルド・ローベルがえがくジョンや妖精たちが大変かわいいです。小学校低学年向き。

2010年1月7日木曜日

サルとトラ









「サルとトラ」(ヤン・サン/再話 ドゥア・リー/下絵 ヤン・ロン/刺繍 ヤン・イェン/刺繍 やすいきよこ/訳 福音館書店 2005)

サルは、森の暴れ者であるトラを、いつかやっつけてやろうと思っていました。ある日、サルはトラにいいました。「トラさん、面白い太鼓をたたきにいきませんか?」「おおいいとも」。サルは、トラを大きなスズメバチの巣のところに連れていって、「これが太鼓ですよ」といいました。

もちろん、このあとトラは大変な目に遭います。サルのやつめおれをだましたなと、トラがタケノコ食べているサルのところにいくと、「太鼓たたきのサルはほかのサル」と、サルはいいのがれます。そして、タケノコを食べませんかとトラを誘い、こんどはトラののどにタケノコの皮を突っこみます。トラの受難はまだまだ続くのですが、読んでいるとトラがちょっと可哀想になってきます。ラオス・モン族の民話を絵本にしたもの。絵は、刺繍で表現されており、素朴で愛らしさを感じさせます。小学校低学年向き。

2010年1月6日水曜日

おんちょろちょろ












「おんちょろちょろ」(瀬田貞二/再話 梶山俊夫/絵 福音館書店 1993)

昔、ある男の子が遠い町の親戚のところへ使いにでかけました。ところが、途中、道に迷ってしまいました。そこで、山のふもとに一軒家をみつけ、ひと晩泊めてもらうことになりました。その家のじいさんとばあさんは、男の子を寺の小僧と勘ちがいしていて、ごはんがすむと、ふたりは男の子にお経をあげてくれるように頼みました。男の子はいまさら正体を明かすわけにはいきません。壁からでてきたネズミに調子をあわせて、「おんちょろちょろ」とそれらしいお経をとなえました。

お経はたいそうありがたがられ、翌朝、男の子はじいさんに町まで送ってもらいます。それから、じいさんとばあさんは毎晩「おんちょろちょろ」ととなえるのですが、その家に三人の泥棒が忍びこんで…とお話は続きます。ユーモラスな日本の民話絵本です。小学校低学年向き。

2010年1月4日月曜日

勇者プーリア








「勇者プーリア」(アリー・アクバル・サーデギー/絵 くろやなぎつねお/訳 ほるぷ出版 1979)

昔、ペルシャ(いまのイラン)のホサラーン地方にあるホラムズという大きな町に、プーリア・ワリーという勇者がいました。プーリアはもう年をとっていましたが、いまでもプーリアを倒して〈世界の勇者〉の名誉を手に入れようと、あちこちから若者たちがやってきました。プーリアは、若い勇者たちにはまだまだ負けませんでしたが、若者を倒してみんなのまえで恥をかかせるのは気がすすみませんでした。しかし、あるときシースタン地方から、年老いた母親をつれた若い勇者がやってきました。

プーリアは若者に組み打ちをやめるよう説得しますが、相手は聞き入れません。息子の勝利を神に祈っている母親を悲しませず、また自分に期待をかけているホラムズのひとびとを裏切らないようにする方法はないかと、プーリアは悩みます。が、プーリアはついに全力で若者とたたかうことを決意します。

イランの伝説をもとに、年老いた勇者の心情をえがいた読物絵本です。組み打ちとは、イランの国技であるレスリングのこと。文章はタテ書きです。勇者プーリアのいさぎよい進退が、気持ちのよい読後感を残します。小学校高学年向き。