2009年5月29日金曜日

フェリックス・クルーソーのふしぎなえ







「フェリックス・クルーソーのふしぎなえ」(ジョン・エイジー/作 渡辺茂男/訳 福武書店 1992)

パリの王様の宮殿で、絵の展覧会がひらかれることになりました。パリ中の画家が、自分の絵を宮殿にはこびこみました。だれも知らないフェリックス・クルーソーもそのひとり。クルーソーの絵は審査員にとても不評でしたが、大賞ををとりました。というのも、クルーソーの絵は生きていたからです──。

このあと、クルーソーの絵は大評判になり、たくさんの依頼をうけます。が、生きているクルーソーの絵はほうぼうで騒動を起こしてしまいます。太い描線と明暗の効いた、よく空間の表現された絵が素晴らしいです。オチも気が利いていて、大人の読者も魅了します。本書は、1988年、アメリカ図書館協会とニューヨーク・タイムズ紙によって、その年のベスト絵本の1冊に選ばれています。小学校低学年向け。

この本も品切れで、現在購入できません。このブログをはじめてから、記事を更新するまえにネット書店で書誌や購入の可否を確認しているのですが、現在多くの本が手に入らないことに驚いています。

2009年5月28日木曜日

あめがふるときちょうちょうはどこへ












「あめがふるときちょうちょうはどこへ」(メイ・ゲアリック/文 レナード・ワイスガード/絵 岡部うた子/訳 金の星社 1992)

あめがふるときちょうちょうはどこへいくのかしら。もぐらは穴にもぐれるし、みつばちは巣にとんで帰れるけれど、ちょうちょはどこへいくのかしら。

雨の景色をほうふつとさせる落ち着いた色あいの絵と、詩的な文章からなる美しい絵本です。「あめがふるときちょうちょはどこにいくのかしら」とくり返すことで自然への興味をはぐくみます。雨の日が、きっと充実したものになるでしょう。小学校低学年向き。

2009年5月27日水曜日

うさぎのみみはなぜながい












「うさぎのみみはなぜながい」(北川民次/文・絵 福音館書店 1989)

あるとき、一匹のうさぎが、もっと大きなからだになりたいと、山の神様のところへお願いにいきました。うさぎのお願いを聞きくと、神様はすこし考えてからいいました。「おまえが虎とワニと猿とを自分の手で殺して、その皮をもってきたら、おまえの願いをかなえてやろう」。うさぎは途方にくれてしまいました。でも、神様のいうことは絶対です。そこで、うさぎはまず虎に会いにいきました。

メキシコの昔話をもとにした絵本です。太い描線のダイナミックな絵が、いささか乱暴な話によくあっています。小学校低学年向き。

2009年5月26日火曜日

よくばりワシカ

「よくばりワシカ」(内田莉莎子/再話 平出衛/画「こどものとも」1988年6月号)

おなかをすかせていた猫のワシカは、とおりがかった森で小鳥の巣をみつけました。さっそく食べようとしましたが、たまごはたったふたつ。これではおなかがふくれません。ワシカは4つか、5つになるまで待つことにしました。2、3日してみにいくと、たまごは5つになっていました。でも、ひなをむしゃむしゃやるほうがいいなと、ワシカはまた我慢することにしました。

ラトビアの民話をもとにした絵本です。欲張りなワシカは、ひなを食べるのも我慢するのですが、ひなは小鳥になり飛び立ってしまいます。ポイントだけ着色してある、平出さんの細密な線画が素晴らしいです。小学校低学年向き

この絵本は雑誌「こどものとも」として出版されたきり、なぜか本になっていないようです。「こどものとも」には、こういう傑作がまだ眠っているのかもしれません。

2009年5月25日月曜日

ショーティーとねこ











「ショーティーとねこ」(バーナディン・クック/文 小笠原まき/絵 小風さち/訳 福音館書店 1999)

茶色い子犬のショーティーは、一匹の猫と、いつも一緒に遊んだり昼寝をしたりして、なかよく暮らしていました。ところが、ある日、猫は台所にもちこまれた大きな箱に入ったきり、出てこなくなりました。そして、何日かすると、箱のなかから小さな声や、壁をひっかく音がするようになりました。ショーティーは箱のなかをのぞきたくてたまりません。でも、のぞこうとすると、あんなに仲がよかった猫に追い出されてしまうのです。箱のなかには一体なにがいるのでしょう。

太い描線でえがかれた躍動感あふれる絵が魅力的。柔らかそうな子猫たちなど、質感の表現がたくみです。怒っている猫の顔はいささか恐いかもしれません。とてもよくできた、申し分のない絵本です。幼児むけ。現在品切れのようです。

2009年5月22日金曜日

あくたれラルフ











「あくたれラルフ」(ジャック・ガントス/作 ニコール・ルーベル/絵 石井桃子/訳 童話館 1994)

ラルフはとてもあくたれな猫でした。セイラがバレエのお稽古をしていると、そのまねをしてからかうし、ブランコをに乗っていると、ブランコが下がっている枝を切ってしまいます。ある日、うち中でサーカスをみにいくと、ラルフはまたあくたれをはじめました。それがあんまりひどいので、セイラたちはラルフをサーカスに置いて、うちに帰ってしまいました。おかげで、ラルフはサーカスではたらくはめになりました。

小さめの絵本ですが、絵がはっきりとしていて遠目が効きます。後半でてくるやくざねこの絵がちょっと怖いです。4才からと裏表紙にあり。

2009年5月21日木曜日

よあけ











「よあけ」(ユリー・シュルヴィッツ/作 瀬田貞二/訳 福音館書店 1977)

夜、毛布にくるまったおじいさんと孫が、湖のそばの木の下で眠っています。コウモリが宙を飛び、カエルが水に飛びこみます。夜が明けてくると、おじいさんは孫を起こし、火をたき、ボートで湖にこぎだします──。

巻末の説明によれば、唐の詩人柳宗元の詩「漁翁」をもとにつくられた絵本です。水彩による、しだいしだいに夜が明けていくさまが圧巻です。文章は短く詩的。読み聞かせる場合は、絵のじゃまをしないように心を配る必要があります。おじいさんと男の子の孫がでてくるので、読むのは男性がむいているかもしれません。小学校低学年向き。

2009年5月20日水曜日

あるあさ、ぼくは…







「あるあさ、ぼくは…」(マリー・ホール・エッツ/作 まさきるりこ/訳 ペンギン社 1981)

あるあさ、ねこのピディが小鳥をつかまえそうになったので、ぼくは手をたたいて逃がしてやりました。それから、腹を立てたピディのまねをして、あとからついていきました。すると、おんどりのコッキィに出会ったので、こんどはコッキィのまねをしました。そのあと、ぶたのパールのまねをして…。

男の子がつぎつぎ動物たちの真似をしていく話です。真似という行為には、ふしぎと幸福感があるように思います。白黒の絵がきれいです。こんなに素晴らしいのに、現在入手不可能。くり返しが多く、地味なので、お話を聞きなれている子むきでしょう。幼児から。

2009年5月19日火曜日

にんじんのたね












「にんじんのたね」(ルース・クラウス/作 クロケット・ジョンソン/絵 小塩節/訳  こぐま社 2008)

男の子がにんじんの種を、ひとつぶ土にまきました。すると、お母さんがいいました。「めはでないとおもうけど」。お父さんもお兄さんもいいました。「めなんかでっこないよ」。それでも、男の子は毎日草をとり、水をかけてやりました。はたして、にんじんの芽はでるでしょうか?

ルース・クラウスとクロケット・ジョンは夫婦で、夫婦合作の第1作がこの作品だそうです。旧訳に「ぼくのにんじん」(渡辺茂男/訳 ペンギン社 1982)がありますが、訳がずいぶんちがいます。

《「ぼくのにんじん」は直訳すれば「にんじんのたね」となりますが訳文のリズムをだすためにこんな日本語題にしました》

と、旧訳で渡辺茂雄さんは書いていますが、どんな風にちがうか、冒頭の一文をならべてみましょう。

「ぼくのにんじん」
《ぼく にんじんの たね まいたんだ》

「にんじんのたね」
《にんじんの たねを ひとつぶ、おとこのこが つちに まきました》

ちなみに原文「The Carot Seed」は、
《A little boy planted a carrot seed.》

さて、本書の内容については新訳の訳者、小塩節さんのあとがきから引きましょう。

《この小さなお話は、にんじんの種の命の強さと、名もない男の子が確信と愛をもってにんじんを助けたことと、このふたつのことが語られる、感動的な二重奏にほかなりません》

幼児向き。

2009年5月18日月曜日

はろるどとむらさきのくれよん












「はろるどとむらさきのくれよん」(クロケット・ジョンソン/作 岸田衿子/訳 文化出版局 1977)

ある晩、ハロルドは月夜の散歩がしたくなりました。そこで、紫の大きなクレヨンをつかって月を描き、道を描いて、さあ出発。クレヨンで描いた舟に乗り、気球に乗ってどんどん進んでいきます。

ハロルドシリーズの一冊。男の子のひとり遊びをそのまま絵本にしたような作品です。描いたものが、ほんとうになっていくさまがとても楽しくえがかれています。本が小さいので、少人数のお話会に向いています。幼児向き。

2009年5月17日日曜日

100まんびきのねこ










「100まんびきのねこ」(ワンダ・ガアグ/文・絵 福音館書店 1980)

昔、あるところに、とても年をとったおじいさんとおばあさんがいました。 ふたりはきれいな家に住んでいましたが、たいそうさびしい思いをしていました。 猫が一匹いたらねえ、というおばあさんのために、おじいさんは猫をさがしにでかけました。 長いあいだ歩いて、おじいさんは、とうとう猫でいっぱいの丘にでました。 その丘には、なんと、一万、一億、一兆匹の猫がいたのです。

お話会の定番絵本のひとつです。 絵は小さく、白黒。話は少し長めです。童心社から紙芝居もでていますが、絵を描いたひとがちがいます。 小学校低学年向き。

余談ですが、子どものころ好きだったこの本を、図書館でみつけてみたら、「白黒だったんだ…!」 と、驚いたという話を聞いたことがあります。 そのひとの記憶では、カラーになっていたのだそう。 記憶のなかで美化される絵本は、まず間違いなく素晴らしい絵本だといえるのではないでしょうか。